空飛ぶタイヤ (2018):映画短評
空飛ぶタイヤ (2018)ライター2人の平均評価: 3.5
まさに今の日本の映し鏡のような作品
三菱自動車のリコール隠し事件を下敷きに、死亡事故の責任をなすり付けられた町の小さな運送会社の社長が、驕り高ぶった大企業の不正に毅然と立ち向かう。保身に走る権力者、その隠蔽工作に加担する部下たち。日本的な事なかれ主義が支配する中、主人公をはじめとする一部の「長いものに巻かれない」男たちが巨悪を暴いていく過程は極めて痛快だが、しかし国の中枢ですら隠蔽・改竄が平然と行われる今の現実を振り返ると、むしろやるせない気にもなるだろう。勧善懲悪が過ぎるベタな展開が目立つ部分もあるが、立場の違いを超えて共鳴し合っていく男たちのドラマは素直に感動的。だが、我々はこれで留飲を下げているわけにはいかない。
諦めない社長、長瀬智也は新境地開拓
ある意味クリフハンガーな展開が売りだけに、連ドラ向きな池井戸潤作品。大スクリーン向きとも言い難く、そのリスクを踏まえての初映画化だ。確かに5時間の尺で捌いた「WOWOW版」に比べ、テンポ良く、それを先導するのが社長イメージと縁遠かった長瀬智也というのも面白い。オリジナルである沢田課長との対峙シーンで醸し出す緊張感も含め、新境地開拓だろう。とはいえ「WOWOW版」同様、今回の本木克英監督の演出も、それほど熱量を感じさせない。TBSドラマにおける福澤克雄演出に慣れすぎた感もあるが、“世紀の逆転劇”を謳うなら、あざとさも必要ではないか。それを踏まえ、福澤監督の映画版『七つの会議』に期待がかかる。