不都合な真実2:放置された地球 (2017):映画短評
不都合な真実2:放置された地球 (2017)ライター6人の平均評価: 3.7
もはや疑う余地のない地球温暖化の現実
前作『不都合な真実』から10年。当時の海外ではまだ地球温暖化に対する懐疑的な見方が根強かったし、将来の大統領選出馬を狙ったアル・ゴアの政治プロパガンダとの批判もあったが、その後の経過を具体的なデータと実際の映像でフォローした本作を見れば、もはや地球温暖化の事実に疑いの余地はないように思える。
そうした前作同様の啓蒙的な要素に加え、今回はパリ協定に難色を示すインドをいかに説得して最終的な合意へ至ったのかという、知られざる水面下の政治的な駆け引きも大きな見どころ。その最中にテロ事件が発生するなどのドラマチックな展開は、さながら真実は小説よりも奇なりの面白さだ。
世界平和と並ぶ難題と戦う男の真実!
ドキュメンタリー映画で地球の温暖化に警鐘を鳴らしたアル・ゴア元副大統領。彼が若手議員時代から掲げてきた気候変動対策に向けて邁進する姿がエネルギッシュだ。事実を集め、分析し、専門家に助言を求め、知識を広く共有するためのゴア・チルドレンを養成する。トランプ政権下で逆風が吹き、「先進国が汚した分、我々も汚す」と石炭エネルギーに頼る大国に宣言されたりもするけど、希望を捨てずに戦い続ける姿はある意味、神々しい。とはいえ前作から11年でさらに危機感が増しているわけで、荒廃していく地球各地の映像を目の当たりにして「自分に何ができるのか?」と自問自答してしまった。
映画という媒体の持つ力を体験させてくれる
前作は地球温暖化による現象と仕組みを解説する基礎編だったので、今回はいわば実践編。現在の温暖化解決のための試みと、それを妨げている状況を提示して、観客に身近な"今できること"の行動を促していく。
そして、そうしたテーマと並行して、映画という媒体の持つ力というものも感じさせてくれる。もともと前作は"講演会の映画化"という発想で製作されたユニークな作品。いわゆるドキュメンタリー映画ではなく、メッセージを観客に伝えるため作られており、その目的達成のために、随所に映画的な工夫が施されている。その顕著な例が、パリ合意に至る経緯のサスペンスフルな描き方だろう。映画の持つ力のひとつを体験させてくれる。
信念を貫くアル・ゴアの姿勢に、素直に感動する
1作目で警鐘を鳴らした地球の危機が、10年経ってもほとんど改善されていない。その前提からして、この2作目で語られる事実には、とくに衝撃も大きくなく、不安よりも諦めの境地さえ感じてしまう。ゆったりと時間をかけながら、いつか人類は消えてなくなるのだろう、と。
この種のドキュメンタリーはプロパガンダの危険も多分に含み、悪く言えば、偏った考え方に「洗脳」されてしまうが、今作の場合、アル・ゴアの人間としての信念が前作以上に強く感じられ、素直に彼を信頼したくなる。気候変動への警鐘よりも、一人の人間のドキュメンタリーとして胸に突き刺さってくるのだ。まっすぐな生き方を学べる一作としてオススメしたい。
環境問題“も”学べる、元副大統領の奮闘記
特にヒネりもなく地球温暖化を訴えるアル・ゴアの講演旅行に密着したシンプルなドキュメンタリーの前作から十年、まだまだ続くゴアの戦いの日々を追い続ける第2弾。政治色はかなり影を潜め、万人も分かりやすく現状が語られる一方、COP21の直前に行った生配信では、パリ同時多発テロ事件の影響を受けてしまうなど、予想外のハプニングも見どころ。そして、パリ協定離脱を表明したドナルド・トランプという新たな敵の存在…。冒頭で前作で受けたバッシングをしっかり描くあたりは共感も持てる。本作で描かれるもの、すべてを鵜呑みにするのはどうかと思うが、環境問題“も”学べる元副大統領の奮闘記として観るのがベターかもしれない。
強烈な危機感だけでなく、希望と意欲も与えてくれる
今作のプレミアは1月のサンダンス映画祭。だが、8月に北米公開された映画には、6月にトランプがパリ協定離脱を宣言したことが盛り込まれている。長年、環境のために闘ってきたアル・ゴアの情熱、努力、フラストレーションを描くこのドキュメンタリーは、思いもかけずして、またもやこんな障害で終わることになってしまった。しかし、そこから希望の呼びかけにつなげるところがさすがである。
米国史上最悪となりそうなハリケーン・ハービーの被害にニュースが集中する今、ゴアが語ることは、なおさら説得力をもつ。強烈な危機感の後に、立ち上がろうという意欲も与えてくれるのが今作だ。