ギフト 僕がきみに残せるもの (2016):映画短評
ギフト 僕がきみに残せるもの (2016)ライター3人の平均評価: 4.3
難病との闘いを通して父親になっていく姿に感動
筋肉萎縮と筋力低下により、やがて動くことも喋ることも出来なくなる。そんな難病ALSに侵されたアメフトの元スター選手スティーヴ・グリーソンが、生まれてくる息子のために撮り始めたビデオレターをまとめたドキュメンタリー。
スポーツマンらしく前向きに闘病へ臨むグリーソンだが、しかし現実はあまりにも非情だ。トイレの排泄すら満足に出来ない屈辱感と挫折感。苛立ちをぶつける相手は献身的な妻。そんな自分の弱さや愚かさまで包み隠さず記録する。そこに彼の真摯な人柄を感じる。
さらに、積年のわだかまりを抱えた厳格な父親との対峙と和解。彼自身が息子にとってどんな父親でありたいのかを模索していく姿に胸を打たれる。
さまざまな感情を呼び起こす生命のドキュメント
アイス・バケツ・チャレンジで格段に認知度が上がった難病ALSだが、実情を知る人は少ないだろう。元アメフト選手グリーソンが自身や愛妻、そして生まれてくる子供と向き合うために撮り始めたビデオ日記には病状の進行が一目瞭然で、辛い場面も多々。しかし、その時々の気持ちや心の揺れを隠すことなくカメラにさらけ出すグリーソンや家族の姿には嘘や偽りがなく、見ている側にさまざまな感情を呼び起こすはず。生々しい発言が多く、カメラマンへの信頼が絶大だったことも伝わってくる。本人が撮った映像など膨大なフッテージを丹念に編集し、死を前にした人間の内省ともいえる生命のドキュメントに仕上げた監督と編集者の手腕が素晴らしい。
映像から体温が伝わるように「生きる力」がチャージされる
ドキュメンタリー、との呼称さえ揺るがす。人生から直に立ち上がってきた映像の集積は「作品」と呼ぶ事すらためらわれるほど。息子に向け、自撮りから始めたS・グリーソンの闘病と日常の記録。綺麗事ではない現実と向き合う姿勢に、何ていい男なんだと思う。そして極めてパーソナルなものが「映画」として我々に届けられる、現在の映像環境の凄さを改めて思い知った。
YouTubeで連続再生する動画アルバム的な感触は、エイミー・ワインハウスの『AMY』と重なる。心臓の鼓動がドクドク聴こえる親密な距離で、剥き出しの魂に直接タッチするような鑑賞体験だ。否応にも「映画」のリアリティの水準はどんどん更新・変容していくのだな。