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おクジラさま ふたつの正義の物語 (2017):映画短評

おクジラさま ふたつの正義の物語 (2017)

2017年9月9日公開 97分

おクジラさま ふたつの正義の物語
(C) 「おクジラさま」プロジェクトチーム

ライター3人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 5

清水 節

異なる正義を排除せず、相手を受け容れようとする想いが伝播する

清水 節 評価: ★★★★★ ★★★★★

 捕鯨をめぐる偏った主張で、全世界を印象操作した『ザ・コーヴ』への反論――それが当初の制作意図。多くの声に耳を傾け、多様な視点を与えてくれる。保護活動家は悪なのか。伝統を持ち出す正当化は思考停止に陥っていないか。とりわけ、太地町に住み漁師達に耳を傾ける米国人ジャーナリストと、両陣営の対話を仕掛けた街宣車の活動家には、覚醒させられる。多様な正義の中で、作り手が揺らぎ始めていくことこそ、最大の特質。声高に主張し相手を圧するのではなく、違いを認めて受け容れようとする柔軟な視点と真摯な想いが、観る者へ伝播する。翻って、いま本作から学んで変容すべきは、公然と罵り合い世界の緊張を高める為政者たちだ。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

世に蔓延している安易な「答え」を、適切な「問い」に引き戻す

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

筆者が和歌山出身だから、というわけではないと思うが、アカデミー賞作品『ザ・コーヴ』ほどプロパガンダの恐ろしさを実感した映画はない。反捕鯨、という「答え」が先にあるだけで、映し出される「風景」がまるで変わってしまうことに衝撃を受けたのだ。本作はそのアンサーの試み――公平な反証から再検討を通して、建設的な解毒剤の役割を果たす。

佐々木芽生監督は問題の全体性を図式的な対立構造から丁寧に解きほぐしていく。太地町の生活に馴染んだ米国人ジャーナリストのジェイ・アラバスター氏など、優れた「個」の姿も含め、実にいろんな声をたくさん拾っている。どこにも偏らない視座というのは、それだけでなんと感動的なのか!

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

ニュートラルな視点で太地町騒動を見つめた良質ドキュメンタリー

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 もともとは『ザ・コーヴ』への反証として企画されたそうだが、撮影を進めていくごとに太地町および反捕鯨活動家、双方の問題点が浮かび上がり、一筋縄ではいかない論争の複雑さを思い知らされたという。そうした監督自身の戸惑いや違和感は作品にも如実に投影され、とても興味深いドキュメンタリーとなっている。
 日本の小さな漁師町を巡る騒動を、グローバリズム対ローカリズムという世界的な分断現象の縮図として捉えた視点は実にニュートラル。それにも関わらずシーシェパードからは非難され、『ザ・コーヴ』制作者に忖度する各国映画祭からは敬遠されるという本作を取り巻く事象がまた、世界を覆う対立構造を象徴するのが皮肉だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
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