花筐/HANAGATAMI (2017):映画短評
花筐/HANAGATAMI (2017)ライター3人の平均評価: 4.3
生に執着する映像詩は、キナ臭い今を乱反射させた厭戦の万華鏡
先の戦争前夜の青春群像。大林宣彦は個人映画に回帰したかのような初々しくアヴァンギャルドな映像で、恋を、熱情を、瑞々しく綴る。悲愴感はない。切迫感に満ちている。夢幻的に繰り広げられる様は、狂おしいまでの生への執着。命が刹那に燃焼して終わるやるせなさ。遥か昔の出来事に思えない。戦後がいつしか戦前に切り替わろうとするキナ臭い今を乱反射させた万華鏡のよう。体制への怒りが露わな反戦ではなく、過ちを繰り返すまいと誓い、殺されまいと願う厭戦/非戦。商業映画デビュー作の怪奇幻想譚『HOUSE/ハウス』は現実から逃避させてくれたが、やはり生と死の狂宴の映像詩でありながら、40年目の本作は現実を直視させる。
作りたいものへの信じがたいまでの純粋さに、ただただ脱帽
40年前の『HOUSE/ハウス』を彷彿とさせる大胆な色遣いやライティング。隠れた名作『麗猫伝説』の摩訶不思議な怪奇趣味。そして『青春デンデケデケデケ』を思い出す熱い青春ドラマ……などなど、大林監督が自ら集大成と覚悟したかのような演出に何度も胸が詰まり、そしてそのセルフオマージュが今むしろ新しく感じさせることに驚くばかり。これこそ、巨匠の強い意思のなせる技か。
ここ数作、監督が込める反戦への思いも静かに深く貫かれるが、あざといメッセージ性は希薄なのが心地よい。
血と薔薇、ドレスの深紅に誘われながら、169分、夢物語の波に身を任せる感覚。渾身の力作とは、こういうものだろう。
昭和初期の香りの和風特撮幻想絵巻
昭和初期風味の和風幻想絵巻。それは、原作小説が昭和12年刊行で、大学進学前の青年たちが「君(きみ)」と呼び合い、自宅では和服を着ている世界が描かれているせいでもある。だがそれよりも、大林監督がこの脚本を書いたのが40年前、商業映画デビュー作「HOUSE ハウス」を撮る前だったことが大きいのではないか。本作には「HOUSE」同様の特撮映像ならではの魅力が溢れている。あえて特殊撮影らしく見えることが意識された映像は、虚構だけが持つことができる愉悦を目指して、見る者を陶然とさせる。俳優たちの演技も、昔のモノクロ映画のスタアたちの様式美が意識されて、この幻燈のような紙芝居のような世界を彩っている。