嘘を愛する女 (2018):映画短評
嘘を愛する女 (2018)ライター3人の平均評価: 3.3
企画性は申し分ないが、物語は人工的でテーマをぼやけさせている
ずっと同居していた男が意識不明になり、名前も仕事もすべて嘘だったと発覚する。打算的で表層しか見ていない女が孤独を埋めるために必要だった男…。ミステリアスな導入、旬なキャスティング、企画性は申し分ない。が、展開はぎこちない。商品性を高めるべく、ストーリーやキャラクターをこねくり回したかのように人工的だ。彼の素性を突き止める旅の長さと笑いも挟むそのトーンは、虚構で塗り固められた2人の関係性の中の真実の発見という作品テーマを、ぼやけさせている。ディテールにも穴は多い。一例を挙げるなら、なぜ30代男が大切にしていた超合金が、同世代アニメではないマジンガーZなのか。ノベライズを読んでも判明しなかった。
心地良い余韻が味わえるオリジナル脚本のラブミステリー
美人で仕事ができるらしいこと以外には人としての魅力がなさそうな“嫌な女”を演じた長澤まさみ、繊細な芝居で謎の男を存在感豊かに演じた高橋一生、さらには、芸達者な吉田鋼太郎や川栄李奈など、少数精鋭のキャストが好演。
コンテストのグランプリをとった企画とはいえ、新人監督によるオリジナル脚本にも関わらず、潤沢とはいえないだろうがきちんと予算をかけて丁寧に撮られているし、一組の男女の愛の所在を解き明かすものすごく小さな話だが、ラブミステリー+ロードムービーといった趣向で、最後まで飽きさせない。
松たか子&坂元裕二によるエンドロールの曲と共に、いい余韻を残してくれる作品。
最近何かと出過ぎの高橋一生だが、これはかなりハマリ役では?
目の前にいるこの人は、いったい何者なのか? ヒッチコックの名作『めまい』も連想させる、妖しきサスペンスと濃密なラブストーリーの混在は、とくに前半、的確な演出と編集によって味わい深い仕上がりになっている。その大きな要因は、高橋一生の持ち味と、演じる役どころの幸福なケミストリーのおかげか。やはりこの人、得体の知れないキャラクターに血肉を通わせる才能があるようだ。
ただし中盤からは、映画全体の語り口が変調するので、そのあたり、物語の辻褄を合わせてスッキリしたいか、もっと妖しさに心をざわめかせたいかで、好き嫌いが分かれるかも。タイトルが示す、危険な運命に溺れる感覚は薄味かも。