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希望のかなた (2017):映画短評

希望のかなた (2017)

2017年12月2日公開 98分

希望のかなた
(C) SPUTNIK OY, 2017

ライター5人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.4

清水 節

独自話法は洗練され簡素は極まり、鋭く時代と社会の現在を射抜く

清水 節 評価: ★★★★★ ★★★★★

 寡黙な人間達の生活の間合いから滲み出る可笑しみと哀しみ。弱者に寄り添うカウリスマキの視点は、近年、必然的にヨーロッパを覆う難民問題へ向かったが、ここでは北欧ヘルシンキに逃れてきた中東シリアの青年を見つめていく。妹と離ればなれになった彼が対峙するのは、人間性を欠いた移民局と排他的なネオナチども。決してドラマティックに煽らない。孤独と不安を抱える人間のミニマムな衣食住が映し出される。生きていくために必要なのは、ほんの少しのユーモア。“ジャパン・カルチャー”が緊張感をほどくワサビの役割を果たしている。カウリスマキのほろ酔い話法は洗練されて簡素さは極まり、より鋭く時代と社会の現在を射抜いている。

この短評にはネタバレを含んでいます
斉藤 博昭

カウリスマキの映画で、初めて泣いた

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

毎度おなじみ、アキ・カウリスマキ作品の無表情の登場人物たち。無表情ゆえの愛おしさ、おかしさ、悲しさは今回も完璧に効果を発揮している。難民である主人公が表情をほとんど変えないことでシビアな現実を伝えつつ、ほんの一瞬、微笑みに顔がゆるむシーンで、観る者のハートは射抜かれる。そのテクニックは神レベル。そして主人公を当然のように助ける人物のあるセリフに、涙腺が決壊した。
世界が直面する切実な問題に、タイトルが示す「希望」を大仰ではなく、ささやかに込め、その「かなた」へイマジネーションをかき立てる。これぞ、芸術の見本。カウリスマキらしいオフビートに笑えるエピソードの入れ方も的確で、ツボに入りました。

この短評にはネタバレを含んでいます
山縣みどり

難民トリロジーの第2弾はビタースウィート

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

南仏が舞台の『ルアーブルの靴磨き』に始まる難民トリロジーの第2弾は、ヘルシンキに密入国したシリア人青年カーリドと壮年のレストラ経営者が主人公。「居場所を求める」という共通点を持つ二人が友情を培う姿をユーモラスに綴るだけなら絵空事で終わるが、A・カウリスマス監督は過酷な現実もきっちり描写。官僚主義やネオナチに蹂躙されるカーリドに世界各国の難民を重ねている。絵画的なフレーミングや50年代風な色彩、ミニマルな台詞回しにクスッとさせる笑いや犬の使い方といったお家芸は相変わらず達者だし、ビタースウィートな余韻が残るラストまで満足しごく。でも、見終わってから調べた日本の難民受け入れ数に愕然でした。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

カウリスマキの世界はいつも"今"だ

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 かつて「レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ」で人気を集めたアキ・カウリスマキが、「ル・アーヴルの靴みがき」に続いて不法移民を描いて、今回もやはりいつものカウリスマキの世界。相変わらずの、微妙な間合い。犬がいて、老人たちが音楽を奏でる。主な舞台となる場末のレストランは、テーブルの形も配置も家具の色もまるで70年代のよう。しかし時間はとまっているのではない。カウリスマキの世界は特定の時代に属していない、つまりいつでも"今"なのだ。だから、現在の問題である不法移民の物語も、その世界で描かれて腑に落ちる。いつものように、人々はみな真面目なのにどこか可笑しく、その行いが静かな余韻を残す。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

今日のニュースを、市井の職人はパンの味にこめる。

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

カウリスマキ自身が本作を「傾向映画」だとコメントしていることに深く納得しつつ、やはり笑いがこぼれてしまう。その発言自体、ユーモラスかつ真摯。そして生活者として、市井の映画作家として、いまの社会状況と当たり前のように付き合い続ける「時代の人」だとも思った。シリア難民の流転劇の今回は、世界の不寛容に対する優しい反骨にあふれている。

小津安二郎は自身のことを豆腐屋に喩えたが、それに倣うとカウリスマキはパン職人というイメージだ。毎朝起きては天然酵母で有機栽培の小麦粉をこね、同じようで日々味が違う、みたいな。今回はかっこいい音楽も満載。ちなみに史上最悪のスシ屋が出てくることだけお知らせしておきたい!

この短評にはネタバレを含んでいます
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