デヴィッド・リンチ:アートライフ (2016):映画短評
デヴィッド・リンチ:アートライフ (2016)ライター3人の平均評価: 3.7
リンチ御大の甘酸っぱいビルドゥングスロマン
『映画作家が自身を語る デイヴィッド・リンチ』等で読んでいたエピソードが多いとはいえ、本人の口から回想として語られ、貴重なプライベートの映像や写真を大量公開。もう激しく感激! ロバート・ヘンライ『アート・スピリット』の影響、ピーター・ウルフとのディラン絡みの喧嘩……もちろん白眉はフィラデルフィア時代の話だ。
「1967年に僕はアスペン通り2429番に住んでいた。ちょうどその頃、ペギーと暮らし始めた」で始まる学生結婚からの青春物語は『イレイザーヘッド』の格好のサブテキスト。コカコーラなんか呑みつつ、一見孫にしか見えない幼い娘のルラ(四人目の妻との子供で2012年生)と戯れる現在のリンチも素敵。
リンチの思い出話が彼の映画を連想させる
この映画で、リンチは自分の作品についてはまったく語らない。ただ彼が生まれてから「イレイザーヘッド」を撮るまでのさまざまな思い出をたっぷり語る。自分がどのように育ち、どんなことをしたか、そのとき父親がどんな反応をしたかまで、かなり具体的に語ってくれるのだ。しかし、彼の語りは音声のみで、彼が話している姿は映し出されない。画面に現れるのは、彼や家族の昔の写真や記録映像、彼の写真や絵画、彼がアトリエで作業をしている姿など。彼の映画はまったく映し出されない。それでいて、リンチの語る話を聞いていると、ああ、この出来事があの映画のあのシーンに通じるのだなと連想されて、そのシーンが脳裏に浮かんでくる。
人間デヴィッド・リンチの素顔と、その創造性の源を知る
映画監督である以前に画家であるデヴィッド・リンチ。本作はそんな彼がアトリエで創作活動に没頭する「日常」の様子を捉えながら、本人のロングインタビューを通じて、その生い立ちや若き日の苦悩などを紐解いていく。いわば、芸術家を生業とする一人の人間デヴィッド・リンチの素顔に迫るドキュメンタリーと言えるだろう。
後の独特な世界観を形成するフィラデルフィアでの鬱屈した下積み時代や息子の将来を心配した父親との関係など興味深いエピソードも盛りだくさん。映画監督デヴィッド・リンチのドキュメントを期待すると肩透かしかもしれないが、それでもリンチワールドを深く理解する上での様々な発見があるはずだ。