ゆれる人魚 (2015):映画短評
ゆれる人魚 (2015)ライター3人の平均評価: 3.7
ポップでシュールで残酷なポーランド産人魚映画
本作における人魚はアンデルセン童話のそれではなく、むしろ美しい歌声と容姿で船乗りたちを惑わし遭難させ、時としてその肉を食らう半人半魚の怪物セイレーンである。そんな残酷だけど無邪気な人魚の美少女姉妹が陸へと上がり、人間社会へと溶け込む中で初めての恋に揺れる。
ポップでキッチュ、シュールでダーク、繊細で官能的。ホラーとミュージカルとラブストリーを融合した独特の世界観は奇妙な味わいだ。と同時に、思春期の少女の瑞々しい成長物語でもある。これが処女作のアグニェシュカ・スモチンスカ監督は、次回作でデヴィッド・ボウイへオマージュを捧げたSF映画に挑戦するらしいが、今後要注目の鬼才と言えよう。
ユニークでキッチュな世界観に魅了された!
陸に上がった人魚姉妹が主役のミュージカル、と書くといかにもアンデルセン童話風。実際、足を得た代わりに声を失うくだりもある。しかし、この映画から伝わるメッセージはもっとディープだ。少女が大人になる過程で体験する多幸感はもちろん、人間関係の複雑さや喪失、痛み、選択の難しさが描かれるのだ。これが長編デビューとなるA・スモンチカ監督の魅力はなんといってもユニークな世界観にある。ナイトクラブの怪しいキッチュな雰囲気をはじめ、人魚の尾ヒレや女性シンガーの夢のシークエンスはD・リンチとA・カウリスマキがタッグを組んだよう。クラブやデパートでヒロインたちがうたう不思議に魅力的な音楽も耳に残る。
80年代、ワルシャワの幻想譚
フランツ・フェルディナンドもカヴァーしたドナ・サマーのディスコ曲「I Feel Love」を演る序盤からすっと入っていけた。人間を喰わねば生きていけぬ、吸血鬼めいた宿命を持つ人魚シスターズ(腰から尻尾にかけての魚部分の長さとぬめりがいい!)もステージに立つナイトクラブ“ダンシング・レストラン”は、共産主義下の東欧で西側文化を味わえる解放区だったらしいが、我々にはどこか懐かしくも新鮮な空間だ。
ミュージカル、ホラー、ラブロマンス等をごった煮にした闇鍋的な作風は深夜興行が似合うカルトムービーの王道。ポーランド映画の文脈で言えば、ズラウスキーのフリーキーな才気に乙女感をデコレートした珍味かも。