しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス (2016):映画短評
しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス (2016)ライター3人の平均評価: 3.3
サリー・ホーキンスの無垢な魅力が生きた
カナダ人画家モード・ルイスについては何の知識もないまま見たが、彼女の成功のみに焦点を当てず、日々を普通に生きるモード&エヴェレット夫妻の物語として描いた点が好感度大。体は不自由だが自立したい女性と家政婦を探す漁師として出会った二人の関係性がゆっくりと微妙に変化する様子は波乱に満ちてもいるが、心がほんわか温まる。そして才能を見出されても高望みなどせずにひたすら絵筆を握り続けるモードが(彼女の画風も)ある意味子供のようで、このあどけなさはサリー・ホーキンスが圧倒的な存在感を世界に示した『ハッピー・ゴー・ラッキー』にも共通する魅力。彼女の無垢な魅力はやはり貴重だなと思わないではいられない。
これはもう一つの「シェイプ・オブ・ウォーター」かも
主演は同じサリー・ホーキンス。ヒロインが身体的に周囲とは異なる部分を持ち、彼女が共に暮らそうとする相手にも周囲とは違うところがあるのは「シェイプ・オブ・ウォーター」と同じ。しかし、こちらの大気はもっと冷たい。主人公は、若年性リウマチを患いながら素朴な画を描いた実在の人物モード・ルイス。主人公はより貧しく、理解し合う隣人もいない。彼女と一緒に暮らす人物との関係は、無骨で見栄えはしないが、もっと切迫してもいる。強さの発揮の仕方はかなり違うが、どちらの主人公も強い。そして2作とも、主人公が強いだけではなく、愛らしくもあるところが同じ。この愛らしさを垣間見せるとき、ホーキンスの演技が光る。
「素敵」のコーティングに囚われない夫婦像を提示する
『パディントン2』『シェイプ・オブ・ウォーター』と、サリー・ホーキンスの波が来ている。昔で言う不思議ちゃん的な匂いの中に、広大な心の自由を備えた役柄が似合う彼女は、時代が求めるリベラルなキャラクターと合致しているってことか。三作中、本作は最も彼女の「芝居」が前面化したもので、伝記映画の王道の醍醐味が味わえる作り。
モード・ルイスの「フォーク・アート」に呼応するロケーションが美しい。ドラマは意外に泥臭いところまで突っこむのだが、元々保守的で粗野な男性像からゆっくり変容する旦那役にイーサン・ホークを当てたのが技あり。また最後にモノクロフィルムで登場する実際のご夫婦がものすごく可愛らしい!