ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ (2017):映画短評
ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ (2017)ライター3人の平均評価: 4.3
親世代とのカルチャーギャップは万国共通のテーマ
パキスタン系移民の売れないコメディアンが白人女性と恋に落ちるものの、同郷女性と結婚してエリート職に就くことを強く望む家族との板挟みに苦悩し、大きな決断を迫られていく。
主演俳優クメイル・ナジアニの半自伝的な作品。出身国の伝統的価値観に捕らわれた親世代との軋轢は、アメリカの移民二世・三世にとって極めて身近な問題なのだろう。本作が異例の大ヒットを記録した理由も、それだけ共感する人が多かったからに違いない。
と同時に、価値観の多様化する現代日本人にとっても他人事ではない部分は多々あり。実家へ戻るたびにお見合いをセッティングする母親に、思わず身につまされて苦笑いする観客も少なくないはずだ。
ちょっとだけ『ラ・ラ・ランド』とも重なる後味
アメリカでの異人種間のラブストーリーとして、両親の反対など、今作の展開はある程度、「定番」である。それゆえに観ていて安心感があり、主人公がコメディアンをめざす設定で基本は軽いノリなのだが、恋の相手が重病となる中盤から、作品のムードがややシビアに転調。コメディから感動作への流れがスムーズで感心した。
同じようなテーマで、強烈なインパクトの『ゲット・アウト』がなければ、もう少し、アカデミー賞で評価されたのに……と思うと、ちょっと残念。終盤は、あの『ラ・ラ・ランド』と重ねたくなる描写もあり、切なさと温かさがブレンドされた後味も極上。大傑作というわけではないが、愛すべき逸品。
文化や宗教が違うけどソウルメイトってアリ!
舞台に飛ばした野次がきっかけで恋に落ちたお笑い芸人と大学院生という設定はラブコメ。でも二人の前に立ちふさがるハードルがカルチャーギャップや難病、家族の諍いというあたりが一味違う。魂が共鳴し合うソウルメイトであっても文化や宗教の前では無力になりがちで、そこをどう乗りこえるのかという深遠なテーマが絡む。とはいえ、コメディ俳優&コメディ・ライター夫妻が書いた自身の物語だけあって、セリフが生き生きとしているし、ピリッと辛口のユーモアや軽妙な笑いが満載。主演のクメイル・ナンジニアとゾーイ・カザンのナチュラルな演技は言うことなしだし、味のある中年になったレイ・ロマノはやっぱりうまいなと密かに感動。