プーと大人になった僕 (2018):映画短評
プーと大人になった僕 (2018)ライター6人の平均評価: 3.5
実写版プーさんは文芸映画の香り漂う佳作
アニメの実写化企画が続々と控えるディズニーの最新作は『くまのプーさん』。といっても、大人になったクリストファー・ロビンと親友プーさんの再会を描いた実写版オリジナルの後日譚である。
ブラック企業の社畜として夢も希望もない退屈なオジサンになってしまったクリストファーが、突然姿を現したプーさんら少年時代の仲間たちとの大冒険を通して自分の人生を見つめ直す。全体的に予定調和な感は否めないものの、文芸映画の香り漂うマーク・フォースター監督の牧歌的な演出が深い味わいを醸し出す。『メリー・ポピンズ』でオスカーを獲得したディズニー・レジェンド、リチャード・M・シャーマンの書き下ろした新曲も必聴だ。
プーの人生哲学が心にしみました
仕事に疲れた男が人生に覚醒する話は山ほどあるが、主人公がクリストファー・ロビン! しかも彼に本当に大切なものを教えてくれるのが、ハチミツを愛するプーなのだ。怖がりピグレットな厭世的なイーヨーなど、童話やアニメに沿ったぬいぐるみの個性に「懐かしい〜」と胸きゅん。プーのピント外れにも思える言動が実はディープと気づくのはこちらが年取った証拠か? 人生、立ち止まることが必要と自分に言い聞かせたよ。主演マクレガーが迷える元少年を好演し、ぬいぐるみとの会話も超自然。そして本当の100エーカーの森が登場するのも原作ファンにはたまらない。自然が残る美しい森のなかなら、どんな夢だって叶ってしまいそう。
プーの森が光を取り戻すよう願わずにはいられない
空が曇っている。ロンドンが曇天なだけではなく、大人になったクリストファー・ロビンが久しぶりに訪れると、プーのいる森の空も曇って薄暗く、プーまで退色しているかように見える。それは、スクリーンに映し出されているのが現在のクリストファーの目に映る世界で、彼がずっとプーのことを忘れていたから。その褪めた色合いが切なく、監督の意図通り、プーのために森に光が溢れるように強く願わずにいられなくなる。
監督は、大人が子供の心を取り戻すという大人向きの物語でありつつ、子供にも楽しめるストーリーにするという難しい技に挑戦。適役なのは、ユアン・マクレガー。子供の頃の笑顔を取り戻す主人公がよく似合う。
疲れたオトナのための癒し映画
原作誕生秘話を描いた『グッバイ・クリストファー・ロビン』が制作されるなか、アニメの実写化を進めるディズニーがドラマ版「ど根性ガエル」的な後日談をなぜ、選んだのか? 動物たちの造形は、原作の挿絵に寄せていることで、ぬいぐるみのもふもふ感は満載。ティガーなど、カラフルで躍動感あるアニメ版とのギャップも大きいが、プーの口癖“なにもしない”を前面に出し、『トレスポ2』に続き、過去を引きずるユアン・マクレガーの好演もあって、疲れたオトナのための癒し映画として観ると、かなり興味深い。ただ、“ロビン一家ファイヤー!”なクライマックスに関しては、『パディントン』の二番煎じ感は否めない。
実写化でのチャレンジ精神と珠玉のセリフは完全に大人向け
プーさんと仲間が「ぬいぐるみ」というビジュアルに、作り手の意欲を買う。単純に可愛いキャラを追求しなかったのは、中年になったクリストファーの視点を込めたからだろう。可愛さではなく、懐かしさが物語にとって重要なのだ。『パディントン』や『テッド』の映像テイストを期待すると肩透かしをくらうかもしれないが、ディズニー名作アニメ実写化での、このチャレンジ精神は評価したい。
「使わないけど持っていると幸せ」「何もしないことが最高の何かににつながる」など、一見、ムダに感じる物や時間の大切さ。プーの言動に無意識レベルで癒される大人は多いはず。見せ場を大げさに演出しないのも、マーク・フォスター監督らしい。
マーク・フォースターお得意の素晴らしき世界
あの少年C・ロビンが大人になり、なんとブラック企業の社畜に! ある種『クレしん』ばりに“働くお父さん”(あるいは疲れた社会人)向けの逸品で、この監督らしい文芸映画の匂い(『ネバーランド』系)。ユアン・マクレガーが近年の彼定番の「少年性を温存したナイーヴな中年」をくるっと反転させた役に扮して、当然にも完璧!
マジでハチミツとせいぜい風船にしか興味のないプーさんが「なんにもしない」という仏教にも通じるラディカルな思想を届けるメッセンジャーとなる。テディベア+実写映画としては上品な『テッド』、ノンポリだがヒッピーライクな『パディントン』としても楽しめ、後者と同じく英国風俗が良い。エンドロールも◎!