ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間- (2018):映画短評
ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間- (2018)ライター3人の平均評価: 3.7
むしろ大人の方が楽しめるかもしれない珠玉のオムニバスアニメ
予告編やCMでもお馴染みの『おかあさんといっしょ』的なテーマ曲のイメージで見に行くと、少なからず意表を突かれるかもしれない。宮崎駿的な感性でサワガニ兄弟の冒険を描く『カニーニとカニーノ』、食物アレルギーに悩む少年とその母の日常を綴る『サムライエッグ』、周りから見えないほど存在感の薄くて軽い青年の悲哀をシュールな世界観に投影した『透明人間』。小さいように見えて大きな勇気をテーマにした3つの短編アニメは、いずれも勿論子供が見ても楽しめると思うが、しかし大人だからこそジワリと胸に沁みる深い味わいがある。それぞれに新たな映像表現の可能性を模索した独特なタッチも面白い。
懐かしのOVAテイストも感じさせるプレゼン映画
短編アニメのオムニバスだけに、「迷宮物語」「ロボットカーニバル」といった見本市感溢れる80`sのOVAテイストを期待したが、それは見事に的中。売りである米林宏昌監督作なカニカニ・ファンタジーでツカんだところで、卵によるアナフィラキシーショックに立ち向かう親子ドラマに、サスペンスタッチで描かれる孤独な男の日常という、作家性の強いオトナ向けが待ち受ける。スタジオポノックのプレゼン映画として、実験的要素も強く、ストーリー重視の長編アニメとは違った発見やインパクトを得られるとはいえ、上映時間54分ながら、主題歌などから水増し感もあるのは否定できない。
存在感なき人間を描く山下明彦の『透明人間』は長編化すべき傑作
ストーリー性に縛られずアニメーションならではの可能性を楽しめる短編集。宮崎駿の影響色濃い米林宏昌の冒険譚『カニーニとカニーノ』、卵アレルギーと闘う少年の日常を描く百瀬義行の『サムライエッグ』。肝は山下明彦による傑作『透明人間』だ。存在感が希薄すぎる人間の悲哀を、重力に反して宙に浮き上がってしまうほど軽い透けた身体と、頼りない輪郭線と、淋しげな心象によって表現。観たこともない情緒的なアクションシーンが深い余韻を残す14分。主題歌は作品コンセプトを読み違えているとしか思えぬほど幼児性が強すぎるが、予定されていた高畑勲の『平家物語』が最終章を飾っていれば、このオムニバス構成は完璧だったであろうに。