運命は踊る (2017):映画短評
運命は踊る (2017)ライター2人の平均評価: 5
戦争が日常と隣り合わせにあることの不条理
男女問わず18歳で徴兵される国イスラエル。プロローグとエピローグに挟まれた3幕構成の本作は、両親のもとへ届けられた息子の戦死の誤報が招く運命の皮肉な因果応報を軸に、父親・息子・母親それぞれの視点を通して「戦争」の呪縛に翻弄されるイスラエル社会の闇を浮かび上がらせる。
細部まで研ぎ澄まされたスタイリッシュな映像美に目を奪われる作品。だが、それは同時に寒々しいほど冷たく空しく陰鬱で、まるで戦争が日常と隣り合わせにあることの不条理を映し出すかのようだ。決して取っつきやすい映画ではないものの、若者を戦争に送り出すことの罪深さと愚かさを思い知らされる。戦争のできる国の現実、これはその一つだ。
イスラエルの固有性が世界の普遍に橋渡しされる凄さ
黒澤明からの影響を公言するS・マオズ監督だが、本作は異なる視点への切り替えで全体性を浮上させる明晰な語りにおいて『羅生門』を彷彿させる。自らの従軍体験をPOVで焼きつけた『レバノン』に対し、今回は国と民族のトラウマを対象化して家族の悲喜劇に凝縮させた。一見洗練された生活の奥にレバノン戦争やホロコーストなど歴史の層が、そして個と世界のメカニズムが見えてくる。
原題のFOXTROTが示すのは、まさに運命のダンス。負の連鎖というよりプラスマイナスゼロの法則――因果応報のパズルだが、父が息子に聞かせる1970年1月号のピンナップガールを巡るお話など、大きめで愛敬たっぷりの特別なピースも混ざっている。