世界で一番ゴッホを描いた男 (2016):映画短評
世界で一番ゴッホを描いた男 (2016)ライター2人の平均評価: 4
複製画を描き続ける男の人生から浮かび上がるのは?
複製画を量産する画工・趙の人生を追うドキュメンタリーには驚きが詰まっている。職業がまずユニークだが、複製画を描くテクニックが鍛錬によって研かれていくことに驚愕。しかもテクニックが磨かれるにつれ、次第に巨匠に魅せられていく趙は、職人と芸術家の狭間で自問自答し始める。生まれて初めて本物のゴッホ作品に触れ、彼自身の芸術を模索し始める姿に芸術とは人間を苦悩させるものと思い知る。複製画がオランダの画廊で芸術として販売されていると思い込んでいたり(実際は土産物屋!?)、ゴッホの人生を伝記映画で初めて知って涙するあたりの無知さにも驚くが、そこから浮かび上がる中国内の社会格差がまた深刻なのだ。
わだばゴッホになる
名画のファストファッション的な複製画工房といったところか。中国・ダーフェン油画村については以前NHK『地球イチバン』で観た事があり、その時に複製専門職は「画工」、オリジナルの発表者は「画家」との称号で呼ばれると知った。本作ではゴッホを独学で描いて20年のベテラン「画工」が憧れのアムスに行く。
もし技法を研究し魂や思考ごとトレースし尽くし、本気の情熱で「偽物」の精度を上げていけば「本物」を転倒させる“アート”が生まれ得ると思う。だがこの中年男性に眠っていたのは“青年的な自我”だ。偉大な先人の模倣を経て、独り立ちして「ゴッホの弟子」となる。棟方志功などもこのプロセスを普通に通ったのかもしれない。