黙ってピアノを弾いてくれ (2018):映画短評
黙ってピアノを弾いてくれ (2018)ライター2人の平均評価: 3
次第に彼の術中にハマっていく。
ドキュメンタリーなのに、父親は建設会社のCEOで、プール付きの家で育ったボンである程度しかプライベートは語られない。ドキュメンタリーなのに、ジェイソン・チャールズ・ベック(本名)という男がチリー・ゴンザレスをキャラクターを演じているように見える。また、無類のかまってちゃんゆえ、一緒に仕事したくないヤバい男なのは確かだが、他人を巻き込むカリスマ性はハンパない。そして、激しいラップパフォーマンスと静かなピアノ演奏を目の当たりにすることで、次第に彼の術中にハマっていく。同じカナダ人ピアニストである『グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独』と見比べるのも一興だ。
どこまでが演出なのか翻弄されるのが楽しい
チリー・ゴンザレスは、本編中で自分はひとつのキャラクターを演じていると公言する。なので(本作の監督は彼自身ではないが)本作はそういうタイプの表現者が、ドキュメンタリーという形式で、自分を自分自身で演出した作品でもあるわけで、どこまでが彼自身で、どこまでがゴンザレスなのか、はたまたこれもまた彼が演出する別のキャラなのかとも思わせつつ、その一筋縄ではいかないところが彼そのものなのかとも感じさせる。そんな映画が、面白くないわけがない。
それでいて、昔の記録映像も使われて、いわゆるドキュメンタリー映画のように彼の経歴が紹介されたりもする。そんなさまざまな要素の共存ぶりも彼らしいのか。