メリー・ポピンズ リターンズ (2018):映画短評
メリー・ポピンズ リターンズ (2018)ライター7人の平均評価: 3.7
R.マーシャルのミュージカルでは一番の成功作。
およそ55年ぶりに創られた続編なのにオリジナルの精神を見事に継いだ秀作。昨今主流のロック調を排して、オールド・スタイルなオーケストレーションで勝負、しかも前作の超有名曲を一切使わないという志の高さもいい。ただし、前作ほどのキャッチーな曲をついに生み出せなかったのは寂しいが。“ポピンズといえば”なアニメ&実写の融合シーンも、ディズニーの退職アニメーターたちが再結集しての手描き+手が込み過ぎたCG処理でまさにマジカル。それにしてもエミリー・ブラント、先代ジュリー・アンドリュースよりツンデレ度強めだが芝居から歌に突入する過程からして実に自然で巧すぎて、シネミュージカル好きはそれだけで涙腺崩壊。
「なぜ、このタイミング?」感は否めない
設定だけでなく、セリフやアイテム、あえてアナログ寄りな特殊効果まで、確かにオリジナルに対するリスペクトはハンパない。また、ロブ・マーシャル監督の演出は手堅く、しっかりベン・ウィショー萌え映画にもなっている。さらに『ウォルト・ディズニーの約束』後だけに、“あくまでもオトナ向け”という原作者からのメッセージも色濃い。一方で、「チム・チム・チェリー」などのヒット曲もガッツリ使われず、ジュリー・アンドリュース不在といった疑問が生じるなど、どこかモノ足りなさも。総合的に、『プーと大人になった僕』とカブる部分も多く、「なぜ、このタイミングでの続編?」な仕上がりともいえる。
経済と幸福の関係を描いて希望を灯す、名作ミュージカルの継承
あの名作から55年。少年少女の20年後という設定の下、構成やテーマを継承し、古典的な特撮タッチの味わいを再現してみせるなど、往年のミュージカル映画を今に甦らせようという志が伝わってくる。シャーマン兄弟の音楽じゃない!という叶わぬ想いもあるが、エミリー・ブラントの歌唱力はオリジナル版を損なうことはない。メリル・ストリープの怪演には場面をさらわれるけれど。撮影時92歳のディック=ヴァン・ダイクの再登場で最高潮に。この瞬間は涙なしでは観られない。恐慌の時代、自信も威厳もない大人に育ったマイケルが、塞ぎ込んだ現代をも象徴する。経済と幸福の関係を描きながら、ヒロインの降臨は希望を灯してくれる。
オリジナルに敬意を捧げたスーパーナニーの帰還
ジュリー・アンドリュースが演じたマジカルなナニーは今でも憧れの存在だが、エミイー・ブラント版もチャーミング。歌も上手だし、優雅さではジュリーよりも上かも。アニメとの共演など本家へのオマージュを感じるシーン多数。ポピンズがまたもや助けの手を差し伸べるバンクス家のマイケルがやや残念な大人になっている点が気になったが、子供たちが頑張り屋なのでバランスが取れている。子供世代は特に楽しめるはず。ミュージカル場面はブロードウェイっぽいし、リン=マニュエルの見せ場も多い。ハミルトン効果? 個人的には楽曲はオリジナルを超えてないと思うが、ダンスは圧巻。そして衣装がカラフルで愛らしく、全部欲しくなった。
古き良きディズニー実写ミュージカルの魅力が満載!
54年ぶりにスクリーンへ復活したメリー・ポピンズ。ジュリー・アンドリュースの確立したイメージを一寸も損なわないエミリー・ブラントは見事なはまり役で、これなら前作のファンも十分納得できるだろう。しかしなによりも嬉しいのは、’60年代の古き良きディズニー実写ミュージカル映画の煌めく魅力を、そのまま現代の観客へ伝えようという試みだ。あえてCGではなく手書きにこだわったアニメ合成シーンもノスタルジックで楽しい。御年93歳になるディック・ヴァン・ダイクの再登板や、『ベッドかざりとほうき』のアンジェラ・ランズベリーの出演など、往年のディズニー・ファンが喜ぶサプライズも。見終わった後の幸福感もまた格別だ。
オーソドックスだが、これ以上ないほど見事な伝説の継承
「伝説」作品の、じつに54年ぶりの続編ということで、前作のテイストを守りつつ、新たな曲で勝負する高いハードルを見事に乗り越えた仕上がり。懐かしのペンギンたちも再登場する2Dアニメの合成や、重要アイテムとなる「凧」、煙突掃除から点灯夫への微妙な変更、そして何より、想像することで幸せが訪れる前作のテーマが、半世紀を経ても観客の心をときめかすことを今作は証明した。54年前と同じキャストが軽やかに踊る姿など、確かに新たな世代の観客にその重要性が伝われないかもしれない。しかし、それでいいと思う。ミュージカルとしての高揚感、ハメを外さずに感動させるキャストの折り目正しい演技など、すべて好印象なのだから。
エミリー・ブラントの英国式ポピンズが新鮮
エミリー・ブラントが、伝説的なキャラクターに新たな息吹を吹き込んだ。本作のメリー・ポピンズのいかにも英国のナニーらしく品位を保ち、ちょっと厳しい態度も見せる人物像は、オリジナル作とは別の新鮮な魅力。また、オリジナル作の魅力のひとつ、実写キャラと2Dアニメキャラの共演も、あえてアニメは2Dのまま、古風なディズニーアニメ系のデザインにしているのも雰囲気にぴったり。その一方で、キャラクターたちが空間を立体的に移動する演出の見事さは、現在の技術があってこそ。と思うと、オリジナルと同じ台詞もある。ありとあらゆる要素が、オリジナル作のどこを継承して、どこをアレンジするかを意識していることが伝わって来る。