迫り来る嵐 (2017):映画短評
迫り来る嵐 (2017)ライター2人の平均評価: 4
得体の知れない不安と人間の本能が、降りしきる雨に溶け合う
闇の世界に一度足を踏み入れたら、妖しい欲求から逃れられない……。連続殺人を追う主人公のドロ沼状況は、ポン・ジュノの『殺人の追憶』やD・フィンチャーの『ゾディアック』と重なるが、今作の場合、刑事ではなく製鋼所の警備員が犯人探しの「虜」となる。自身の日常を忘れ、夢中になった何かにズブズブ侵食される姿に、人間の隠れた欲望が垣間見え、他の猟奇殺人ムービーと明らかに印象が異なるのだ。基本的に天気は雨か曇り。犯人らしき者の人影の不気味さ、突発的な衝撃シーンなど、ノワール的サスペンスに必要な演出を適材適所に配置し、香港返還時、中国社会の変化への不安を主人公と事件に重ねた、映画作家としての「意思」も傑出。
'90年代の激動する中国社会の闇を描いた犯罪サスペンス
香港の返還を目前に控えた’97年、中国の小さな寂れた工場町で連続猟奇殺人事件が発生し、犯人探しに取り憑かれた男が泥沼にハマっていく。物語の世界観や映像の雰囲気など韓流サスペンス『殺人の追憶』をかなり彷彿とさせる作品だ。経済の改革開放路線によって国が日進月歩で発展する一方、市場経済に取り残された田舎では人々が昔ならではの質素な生活を送る’90年代の中国。しかし、時代は確実に変化しつつある。まもなく古き良き時代は終焉を迎え、激しい変革の波が押し寄せるだろう。そんな「迫り来る嵐」を前にした、当時の中国人の漠然とした将来への不安を、迷宮のように妄想めいたダークな犯罪ミステリーとして描いて興味深い。