暁に祈れ (2017):映画短評
暁に祈れ (2017)ライター3人の平均評価: 3
地獄のような刑務所生活を疑似体験させる圧倒的リアリズム
麻薬所持の現行犯で逮捕され、タイの刑務所に投獄されたイギリス人ボクサーの実話である。このタイの刑務所というのが想像を絶するほど凄まじい。レイプも暴行も賄賂も日常茶飯事で、しかも不衛生なことこの上なしという文字通りの「生き地獄」。そりゃ自殺者や変死者が次々出るわけですよ。そんな命がけの弱肉強食をサバイブするため、主人公は刑務所内のムエタイチームに参加し、試合に勝つことで明日へのかすかな希望をつないでいくことになる。本物の刑務所でロケ撮影し、本物の元囚人たちを脇に配すことで、タイの刑務所生活を疑似体験させる作品。それ以上でもそれ以下でもないが、その徹底したリアリズムには圧倒される。
更生を促すためには超絶ハードな刑務所が必要なのかも
薬物依存のイギリス人青年ビリーがタイの刑務所でムエタイに熱中することで再生を目指すという話だが、服役囚がどう見ても本物。エキストラの半数くらいはリアル犯罪者? しかもレイプや殺人、リンチ、薬物の売買が横行する刑務所内の状況が具体的で、恐怖を感じっぱなし。生き地獄に放り込まれ、逃げ場のない辛さたるや! 祈りは届くのか? 主人公も彼が親しくなるレディーボーイにも服役理由はあるのだが、同情せずにはいられない。こんなにハードな刑務所にはきっと、二度と犯罪に手を染めないと決意させる抑制力があるような気がする。ゴーン容疑者が留め置かれている日本の拘置所を地獄と糾弾するフランスのメディアに見せたいよ。
画面を埋め尽くす肉を突き抜けていくものがある
肉、肉、肉。筋肉が画面を埋め尽くす。熱気と湿度が充満するタイの刑務所、男たちは上半身裸で、タトゥーで飾った筋肉を誇示し合う。そのうえボクシングの前には素手で白い油脂から油をえぐり取り、それを筋肉の表面に塗るので、肉の塊に油まで加わり、ムッとする匂いにむせるような錯覚に陥る。
しかし、にもかかわらず、これは肉だけを描く映画ではない。画面では肉がひしめき合い、その肉が殴り合い、膨れ上がり、血が流される。肉と肉が、汚いことを繰り返す。そういうものを映し出しながら、映画は、それらの肉を突き抜けていく、何かひどく単純で純粋なものを捉えようとしているように見えてくるのだ。