アラジン (2019):映画短評
アラジン (2019)ライター7人の平均評価: 3.4
ガイ・リッチー監督って器用ですね!
ディズニー・アニメの実写化だが、W・スミス演じるジニーの圧が強いのは、ブロードウェイ・ミュージカル版寄りだからか。ペルシャ文化にボリウッドが混ざった感はあるが、色彩の鮮やかさや愉快な群舞など見どころは多いし、スタンダードとなった主題歌を思わず口ずさむ人は多いはず。エンタメ度の高い正当なディズニー調の作品で、見終わってG・リッチーの監督作と気づいたほど。アラジンのアクションにパルクールが入っていたが、リッチーらしさとは言い切れず。ファミリー向きの物語をそつなく作れる、非常に器用な監督と逆にリスペクト! お猿のアブーがめちゃ芸達者で、CG動物が活躍する『ライオンキング』への期待値が上昇。
なんともゴージャスな実写化!
基本的に忠実なリメイクで、大きくはみ出した感はない。そういう点では、ガイ・リッチーを監督に担ぎ出した意味があまりないような気がしないでもないが、それでも高濃度のエンタメ作品であることに変わりはない。
アグラバーの街並みの再現は美術力を確かに感じさせるし、そこを駆け抜けるカメラワークもアニメのテンポの良さに負けない妙技。マサラムービー的ダイナミズムが宿るミュージカル・シークエンスも、おなじみのナンバーのゴージャスなアレンジにより映えに映える。
歌でもはりきるウィル・スミスが思っていた以上にハマリ役。軽妙なキャラが似合うのを再認識したのと同時に、アニメ的な表情の作り方も巧いことにも感心。
巧みにアップデート
ディズニーは社会の変化を意識し、自ら運命を切り拓くヒロインを打ち出しており、本作でもその方針を貫く。
物語はほぼ同じだが、改良したのはセリフだ。
政略結婚の相手をただ待つだけだった王女は、自分の幸せより、王国の安泰と国民に幸せを願う言葉を口にする。
なので後半、王国乗っ取りを企む者の出現に毅然と立ち向かっていくのだが、ここは作品のモデルとなった中東情勢も意識しているのだろう。
こんなセリフが胸を突く。
「リンゴを盗めば泥棒だが、国を盗めば支配者だ」。
日本同様、コミックやアニメの実写化が相次ぐハリウッドだが、世相を斬ることも忘れない。
世界中の老若男女に支持される理由がここにあるように思う。
ジャスミン色強め、ガイ・リッチー色控えめ
『パワーレンジャー』とは別人のようなナオミ・スコットの圧倒的な存在感&歌唱力も確かにあるが、昨今のディズニー・プリンセス自立の余波を受けてか、とにかくジャスミンの扱いが大きい! そのため、ジャッキー・アクションも入った冒頭を除けば、全体的に野郎の描写が得意なガイ・リッチー色は控えめで、期待したジャファーに関しては雑魚感も目立つ。また、ロマンティックとスラップスティックのバランスが絶妙だったアニメ版より、40分近く長尺なことも問題で、再現率はそれなりに高く、観たいシーンはある程度観られるものの、監督の作家性が出まくった『ダンボ』とは異なる意味でのディズニー実写化となった。
空飛ぶ絨毯がむちゃキュート!
空飛ぶ絨毯のキャラが立ってて、むちゃキュート! これはもう「ドクター・ストレンジ」のマントの仲間に違いなく、ただの四角い布なのに、その動きだけで性格を表現するアニメーターの力量に脱帽。この絨毯が閉じ込められていた洞窟から出たときに、主人公たちのドラマとは関係なく、とても愛らしいことをするので、そこをお見逃しなく。
アジア系ファンタジー原作に相応しく、アラジンが王子の格好で都に乗り込むシーンは、インド映画の極彩色とド派手さにアラビアの舞踏の曲線美が融合された趣で、全編このテイストでも良かったのにと思わせる。ウィル・スミスの登場シーンも彼らしいヒップホップのノリとキレが加味されて楽しい。
期待した世界と出会えるのは間違いない
冒頭の「アラビアン・ナイト」から、オリジナルのアニメおよび舞台ミュージカル版で聴き慣れた音楽の効果が絶大。一瞬で世界に誘い込むことに成功する。その後の主人公の流れるようなアクションシークエンスも、物語を加速するうえで効果的。ランプの魔人のアニメ的持ち味は、ウィル・スミス以外には考えられないハマリ役であり、アラジンとジャスミン、2人の初々しさとのコントラストは、作り手の意図どおり。人間以外のキャラも実写ならではの魅力を放ち、要するに、多くの人が期待するとおりのエンタメ的、過不足のない仕上がりになっているのだ。世界観からしてCGが使われるのは仕方ないが、部分的にダンスとCGの相性の難しさは感じた。
すべてが詰まった、ハートを感じる娯楽作
あのガイ・リッチーが、こんなロマンチックな映画を作るとは!いきなりそんな嬉しいサプライズを与えてくれる今作は、一方でスピード感とアクションにも満ちていて、なるほどリッチーだとも思わせる。ウィル・スミス演じるジーニーや、新しいキャラクターのダリアが、笑いもたっぷり提供。このジーニーには悲しさ、奥深さがある上、ダンスや歌もあって、久々にスクリーンに復帰するスミスのスターパワーを再証明する。だがこの映画のハートはなんと言ってもチャーミングさいっぱいのメナ・マスードとナオミ・スコット。このふたりは断然、今後注目すべき存在だ。もちろんアラン・メンケンの音楽も最高。