HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ (2018):映画短評
HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ (2018)ライター5人の平均評価: 3.2
あまりに雰囲気重視な演出とユルすぎる脚本
絵に描いたような町一番の不良とその妹、そしてボンクラなシャラメ。ホットパンツがキマるマイカ・モンローも悪くないが、『レディ・バード』以前の撮影だけに、ラガーシャツ姿のシャラメから滲み出るピュアさが、とにかく眩しい。しかも、劇中のモノローグを担当するのがシャラメじゃないところがミソだ。そんな「スタジオA24」らしい作風ながら、あまりに雰囲気重視な演出とユルすぎる脚本が目立ち、終盤にかけての失速には唖然。バルティモラの「ターザン・ボーイ」やロクセットの「消えゆく花のように」を流しながらも、じつは監督は1991年という時代にこだわってないんじゃないか?とも思わせる奇妙な一作。
シャラメのなせる技か、危険な夏がメロウに溶けていく…
美女に悶々としながら、バイオレントな年上男と大麻を売りさばく裏仕事をエスカレートさせ……と、とことん危うい夏の物語なのに、全体に妙に優しいムードが漂い続けるのは、少年のような肉体をぎこちなく動かす「ティモシー・シャラメ効果」のおかげか。ただし、この作品で彼の演技の才能は特に感じられない。あくまでも雰囲気。むしろ誘惑と戸惑い、魔性と純情を巧みに行き来させるマイカ・モンローを見直した。
音楽の使い方もベタな分、人物の心情や、それぞれの関係性が鮮烈に伝わってきたりして、青春サマームービー王道の、やるせなさ、ほろ苦さ、一瞬の輝きは十分。だから、なんとなく想像がつく展開も最後まで見入ってしまう。
十代の真夏の夜の、危なさと魅惑と
小さな町で暮らす少年が、自分の手の届かない遠いところで光り輝く少女を発見し、どうしようもなく惹かれてしまう。そんな10代の少年版のファム・ファタールものでもある。"宿命の女"に出会ってしまうのが、大人になってから読むハードボイルド小説の中ではなく、子供時代の田舎町だったとしたら。そんな物語が描かれていく。
なので、舞台は蒸し暑く空が真っ黒な夏の夜。夜の移動遊園地、一瞬輝いて消える花火、地元の少年少女が集う夜のダイナーでの噂話、簡単に手が出せる危ないアルバイト。画面にいつも、十代の蒸し暑い夏の夜にだけやってくる、危険な行為への衝動と、それと背中合わせの高揚感が漂っている。
ティモシー・シャラメの孤独で危うげな美少年ぶりが見どころ
舞台は’91年。父親を亡くした平凡な少年ティモシー・シャラメが、ひと夏を過ごすことになった避暑地の町で、誰もが一目を置くクールな不良少年と意気投合し、誰もが憧れるクールな美少女と恋に落ちる。これがデビュー作のイライジャ・バイナム監督は、自身が学生時代に出会った2人の若者をモデルに脚本を書いたとのこと。ノスタルジー溢れるほろ苦いカミング・オブ・エイジ物に仕上がっているが、監督の個人的な思い入れの強さとは裏腹にストーリーの焦点はいまひとつ定まっていない。やはり最大の見どころは、どことなくジェームズ・ディーンを彷彿とさせるシャラメの、母性本能をくすぐるような孤独で危うげな美少年ぶりであろう。
選曲も語り方もワザあり
ティモシー・シャラメ文脈で言うと『君の名前で僕を呼んで』+『ビューティフル・ボーイ』的なハマリ役(起用はブレイク前との事)。海辺の町にやってきた18歳男子(童貞)が体験する「あの夏」物で、アレックス・ロー扮する地元最強のモテ不良と組んでワルい稼業に手を染める。このコンビはケルアック『路上』のサル・パラダイスとディーン・モリアーティも彷彿させる感じ。
時代設定は91年で『ターミネーター2』が絶賛公開中。監督いわくローの役は若き日のブラピが念頭にあったらしく、ならシャラメはジョニデでヒロインはウィノナ・ライダーってとこか。本当に90年代当時の代表的な青春スター達が出てきそうな雰囲気がたまらない!