あなたの名前を呼べたなら (2018):映画短評
あなたの名前を呼べたなら (2018)ライター2人の平均評価: 4
カースト制はないというけれど……
ダンスも歌もないボリウッド映画である本作が描くのは、富豪青年とメイドの恋。身分を超えた恋愛の場合、ハリウッドではシンデレラストーリー的にハッピーに描かれがちだが、インドでは恋愛感情の芽生えからしてひっそりとしとやか。一種の禁忌を感じさせるのは文化的背景によるのだろう。“ご主人様”としか呼んではいけない男性にほのかな恋心を抱く未亡人メイド、そして使用人と心を通わせるなどご法度な青年それぞれの心情を丁寧にすくい取ったR・ゲラ監督のお手並みが鮮やか。
21世紀になっても残る女性蔑視や身分制度が残るインドだが、最近の映画を見ると「否」を訴えるフェミニストが育っているのは明らかだ。
見えない階級の壁と性差別に挑んでいくヒロインに共感!
IT産業の発達によって人々の暮らしが豊かになる一方、半世紀以上前に撤廃されたカースト制度の階級意識が社会の隅々に根強く残っているインドを舞台に、身分違いの男女の恋愛が描かれる。主人公は高級マンションに暮らす会社御曹司の青年と、住み込みで働く若きメイド。ただでさえ交わってはならない立場の2人だが、そのうえ彼女は亡き夫の家に縛られて恋愛を禁止された未亡人。ことさら女性に対する理不尽な制約が多いインド社会で、自分の気持ちに真っすぐ向き合い、未来を切り開こうと奮闘するヒロインの姿が爽やかな感動を呼ぶ。と同時に、伝統や常識の名のもと、今なお女性に様々な制約を課している日本社会の現実にも気付かされる。