トム・オブ・フィンランド (2017):映画短評
トム・オブ・フィンランド (2017)ライター2人の平均評価: 4
ゲイ・カルチャーのアイコンを作った男の素顔に迫る
A・パチーノ主演作『クルージング』で存在を知った黒レザーのガチムチ男性像。ゲイ・カルチャーにおけるアイコンのひとつであるその像を作り上げたフィンランド人アーティスト、トウコの人生が実に興味深い。まず独特なエロティック・アートの背景である戦争中の体験が強烈。そして同性愛が違法な時代には “本当の自分”をひた隠し二重生活を送り、隠れて描き続けた作品でゲイ・プライドの象徴となり、没後にようやく故国でも認められる。この映画はフィンランドにおけるマイノリティの歴史でもあり、才能だけで社会現象を起こした男のラブストーリーの側面もあるユニークな物語だ。
ゲイアートの先駆者が世界に訴えた性=生の歓び
ハードなブラックレザーを身にまとい、いきり立つ巨大なペニスを誇示し、ワイルドな髭をたくわえて微笑むマッチョな男たち。ゲイの存在がまだタブーだった時代、そんな世間をあえて挑発するようなエロティックアートによって、男が男を愛することの歓喜を表現し、世界中のゲイ男性たちに勇気と誇りを与えた匿名画家トム・オブ・フィンランドの半生を描く。今ではリベラルな印象の強い国フィンランドだが、’71年まで同性愛が違法だったというのは少なからぬ驚き。男同士の赤裸々なセックス描写に賛否もあろうが、しかし本来人間にとって性=生であり、アイデンティティの根幹を成すもの。そこを蔑ろにしなかったことをむしろ評価したい。