グッド・ヴァイブレーションズ (2012):映画短評
グッド・ヴァイブレーションズ (2012)ライター4人の平均評価: 4
音楽の持つ力を改めて知らしめるパンクロック・ムーヴィー!
アイリッシュ・パンクのゴッドファーザーとも呼ばれたレコード会社オーナー、テリー・フーリーの半生を描いた音楽ドラマ。北アイルランド紛争が最も激化した’70年代前半、紛争地帯のど真ん中にレコード店をオープンしたフーリーは、やがて地元パンクキッズのために音楽レーベルを設立し、アンダートーンズなどの伝説的バンドを世に送り出す。採算を度外視してまで彼がパンクロックに傾倒した理由は、権力への怒りを抱え明日への希望を失ったアイルランドの若者たちに音楽が必要だったから、なにより紛争で荒廃した故郷の人々に生きる活力を与えたかったから。その煮えたぎるほどの情熱に胸を打たれる。音楽って素晴らしい!
それでも、自由でいられるか?
ロックンロールに入れ込む人間には自由精神の持ち主が多いが、実話に基づく本作の主人公も然り。1970年代北アイルランドの紛争を背景にしているぶん自由の意味も重い。
『イージー・ライダー』のセリフを思わせる、「金に魂を売り渡さなければ自由でいられる」という父の言葉どおりの生き方。アンダートーンズの名曲”ティーンエイジ・キックス”の原盤権をメジャーに超安価で譲り渡してしまえる、そんな主人公のロック偏差値の高さがキャラ的な魅力。
とはいえ、家庭を持てば金も必要になり、時として”自由”を”責任”が支配する。そんな現実を見つめている点が人間ドラマの面白さ。一ロックファンとして重く受け止めた。
アンダートーンズの「ティーンエイジ・キックス」はここで鳴った
アンダートーンズの'78年のヒット曲「ティーンエイジ・キックス」がどういう状況下で鳴った音だったのかをこの映画で体験すると、あの一見単純な曲がさまざまな意味を持って聞こえてくる。
映画タイトルは、本作が描く実在の北アイルランド、ベルファストのレコード店&レーベルの名だが、この映画が発する"いい波動"のことでもあるだろう。黎明期のパンクが紛争中のベルファストではどういうものだったのかを描き、当時の熱気を体感させてくれる。それに負けない熱さなのが、店主テリー・フーリーの心意気。"大事なのは金儲けじゃない"を実践する男の物語は、エンディングも実話とは思えないほどイイ味。
生きる歓び
こんなとこまで掘ってくれんの!? と驚喜する激レア音楽映画。なんとお題はベルファスト・パンク。1970年代後半、内紛が続く北アイルランドの「爆弾横丁」にレコ屋を出すところからスタートしたテリー・フーリーの物語だ。白眉の一つはBBCの大物DJ、ジョン・ピールの登場。彼が墓石にフレーズを刻んでいるアンダトーンズの「ティーンエイジ・キックス」を巡るエピソードもしっかり描かれる。
品揃えはマニアックだが、内容はピュアな情熱を謳う男泣き系の平易な傑作で、『24アワー・パーティ・ピープル』等と一緒に観たい。そしてパンクロックはこの街に何をもたらしたのか――最後に引用されるジョー・ストラマーの言葉に注目。