IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。 (2019):映画短評
IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。 (2019)ライター6人の平均評価: 3.7
サービス精神たっぷりで、とにかく膨満感
ルーザーズ7人の、大人になった日常から苦悩があぶり出されるうえ、前作ではうっすらだった子供時代のトラウマも深掘りするので、上映時間169分もドラマの分量には合っている。前作以上のペニーワイズまわりのドッキリ演出と、仲間の絆の往復に、コミカルなやりとりも大人のキャストによって強調され、全体の計算されたメリハリで体感的に飽きることはない。とくにビル・ヘイダーのコメディリリーフが味わい深いし、一瞬登場のグザヴィエ・ドランの役回りなどキャスティングの成功を実感。子役たちの成長を抑えた「CG」も、ある意味で隠れた見どころ。ただし、終盤の展開が、満腹後の食べきれないデザートと感じる可能性もあるかと。
ラストでは何ともいえない高揚感も!
前作から2年、待望の27年後のルーザーズ・クラブと“恐怖の象徴”ペニーワイズとの闘い。誰が生き残るか問題に関してはTVムービー版と同じだが、とにかく演出が丁寧。そのうえ、ジェームズ・マカヴォイ、ジェシカ・チャステインら芸達者を集め、トラウマ・ドラマも全員分しっかり描いているため、前作より30分以上も長尺。そのぶん、説得力も増し、ラストでは何ともいえない高揚感に満たされる。小ネタもあるうえ、子役のちょっとした成長も楽しめるだけに、前作をおさらいした方がさらに楽しめるが、ファン目線で製作に参加したスティーブン・キングの怪演を観れば、その仕上がりはお墨付きだ。
アダルトチルドレンの恐怖は続く
子どもたちがそれぞれの恐怖に対峙した前作。今回は大人になった彼らが、当時のトラウマと対峙する。
仕事で成功を手にしながらも、恐怖からは逃れられないルーサーズ・クラブの面々は大人というよりはアダルトチルドレン。そういう意味では『スタンド・バイ・ミー』的な青春劇だった前作の延長線上に築かれた感が強い。7人のドラマをしっかり描いた分、169分の長尺になったが、恐怖描写の配置が巧みで緩みはない。
同性愛者へのヘイトを絡めた事件を冒頭に置いたことで、現代の病める空気を感じさせる。原作をノスタルジックな子ども時代と病みの大人時代に分割した意味が、そこにあるのではないだろうか。
テレビ版よりも上手くまとまった『IT/イット』後半戦
かつてのテレビ版では、その結末が賛否両論(というより不評)だった「イット」後半戦。そこを今回はそつなく上手いこと料理しており、なおかつ『遊星からの物体X』オマージュまで披露してくれるのは嬉しい。前作から27年後、再び姿を現したペニーワイズを倒すため、大人になったルーザーズたちが結集。子供時代の真っすぐな正義感も豊かな想像力もどこへやら、すっかり世俗にまみれた退屈な大人になってしまった主人公たちが、かつての友情と童心を取り戻し、幼少期のトラウマを克服することで困難に立ち向かう。恐怖描写もなかなかショッキング。スティーブン・キング御大やピーター・ボグダノビッチのカメオ出演も要注目。
彼らと一緒に、また、あの夏が味わえる
前作の子供たちが大人になって、それぞれがどんな大人になったのかが見られるのも楽しいが、子供時代も同じくらいの比重で描かれるのがポイント。彼らはペニーワイズと対決するために子供時代を思い出さなければならないという設定で、子供時代のシーンもたっぷり。今回も、前作のあの夏の雰囲気が味わえるのだ。基本的な趣向も前作と同じ。今回も特殊効果を駆使したビジュアル映えする怪異が続々。怪物たちが、子供の見る悪夢に相応しく微妙にキュートなデザインなのも前作と同じ。大人になった彼らが、あの夏に一度乗り越えたはずだった"自分が深層意識でもっとも恐れているもの"と、もう一度、向き合わなくてはならなくなる。
欲張りすぎな感じもあるが、バランスの取れた効果的な映画
1作目の大成功を受けて、予算アップしたのが明らか。ペニーワイズも前になかったふうな形の変え方をするし、クリーチャーもたっぷり出てくるが、それらが出て来る前、友人たちが再会するあたりの、映画のはじめのほうも、もう十分怖い。彼らがあの出来事から大きなトラウマを受け、その影響が今もどれほどあるのかをしっかり描いていることが、このホラー映画に人間ドラマと心理スリラーの層も与えている。それを見事に表現するのが、実力派揃いのキャスト。ちょっと欲張りすぎな感は否めないし、これだけの上映時間が必要だったのかどうかも疑問だが、全体的にバランスの取れた効果的な映画だと思う。