糸 (2020):映画短評
糸 (2020)ライター3人の平均評価: 3.7
紡がれる絆
楽曲からインスパイアされて作られた映画は今までもありましたが、本作もその系譜に連なる作品の一つと言えるでしょう。
どちらかというと抽象的・観念的な歌詞の楽曲から、北海道や沖縄、さらにはシンガポールまで拡がる映画になるとは思いませんでしたね。
主演の二人に加えて、脇まで豪華なメンツが揃い、しっかりと物語を見れます。
同じように長いスパンで一組の男女を描いた『弥生、三月』と見比べてみるのも楽しいでしょう。
良く言えば、往年の日本映画らしさ全開
『弥生、三月』同様、一組の男女の波乱な人生を描いているが、ここでも成田凌のチャラ男芝居が光り、中島みゆき繋がりゆえ、菅田将暉が一緒でもGReeeeNでなく「ファイト!」熱唱シーンは見どころ。一方、『溺れるナイフ』以来の菅田&小松菜奈共演という意味では、すれ違いの美学も感じさせず、かなりモノ足りない。良く言えば、海外ロケもある往年の日本映画らしさ全開だが、あまりに既視感あるエピソードが連なり、『余命1ヶ月の花嫁』ふたたびな榮倉奈々らのキャストも、贅沢<無駄遣いに見えてしまう悲しさ。最終的に、“裏切らない”高杉真宙のナイスガイな一面と、小松がカツ丼に延々がっつく姿が際立った一作に。
主演2人の実力は別格だと実感。演技で泣ける瞬間が幾度も
平成を駆け巡る物語ながら、妙に昭和の香りも漂う。めぐり逢いや、すれ違い、別れの運命など、いい意味での泥臭く、ベタな展開のせいだろうか。しかし令和の時代に観てしっくり来るのは、この世界を日本人が愛し続けているのだと納得。何よりテンポが良く、時制や場所の移動が自然な流れで計算されており、観ていて飽きることがない。
菅田将暉、小松菜奈は、それぞれの役の約10年の変化を鮮やかに見せたうえに、感情表現があまりに的確。「演技に泣ける」瞬間が何度か訪れる。小松に、あの山口百恵が憑依したかと錯覚させるのも昭和の香りの要因かも。素顔の2人への妄想も含め、今作に期待する人にとって、欠点は見当たらないのでは?