喜劇 愛妻物語 (2019):映画短評
喜劇 愛妻物語 (2019)ライター3人の平均評価: 4
全てのポンコツたちに捧げる人間賛歌
世界の潮流からすれば、”不甲斐ない夫を支える妻”という夫婦像は前近代的であり、極めて日本的とも言える。だが繰り返される失態と叱責も、ここまで極めれば夫婦漫才のごとく芸の粋。しかも足立監督にとっては初監督作『14の夜』に続いての、実体験に基づく性に振り回される男の物語だ。自身のどうしようもない煩悩をさらけ出して一つの作品として昇華させる、この逞しさと執念はあらゆる制作者の鏡。それが作品の圧倒的なパワーを生み、一周回ってあらゆる人に勇気を与える人間賛歌となっている。そんな足立夫妻の分身とも言える役を嬉々として演じた俳優たちの度量とプロフェッショナルな仕事ぶりに拍手!
本当は「悲劇」なのだが、そうは認めたくない「喜劇」
タイトルに付いている「喜劇」とはもちろん、コメディであることを自ら標榜しているのだけれども、この映画のブチ切れ妻の「喜劇的状況」も指しているのだと思う。すなわち、ダメダメな男、売れない脚本家に一度は図らずも惚れ、結婚し、子供を作ってグダグダな毎日をやり過ごしている状況。本当は「悲劇」なのだが、そうは認めたくない「喜劇」。
だから妻がどんなに罵詈雑言を吐いてもそれは、夫を甘えさせてダメにしてしまった自分自身にも言っている。そんな夫婦の歴史、“理屈”ではない結びつき、そのねじれた「愛」と「憎」と「情」がドドドッと迫ってくる。むき出しの水川あさみ、ニタニタ顔の濱田岳、健気な娘役の新津ちせに拍手を!
まだまだ止まらぬ“性衝動”
デビュー作『14の夜』に続き、今度も足立紳監督が描く“性衝動”が大きな軸となる『フレンチアルプスで起きたこと』ならぬ、“香川シナハンで起きたこと”。安定すぎるダメ夫役の濱田岳に対し、終始罵倒し、飲みっぷりもいい鬼嫁役の水川あさみが過去最高といえるハジケっぷり。名バイプレイヤーの印象が強いなか、ガチでエロい主婦役の大久保(佳代子)さんと同じぐらいのハマり様だ。胸焼けするほど夫婦喧嘩を延々と見せられながらも、後味が決して悪くないというのは、やはり監督の実体験だからか。それにしても、「高速でうどんを打つ女子高生」の描写は、一瞬、自分の目を疑うほどスゴかったりする。