ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ (2018):映画短評
ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ (2018)ライター3人の平均評価: 4.3
過去と現在、夢と現実が交錯するリンチ的な中華ノワール
まるで何十年も時が止まったような中国の古い田舎町。久しぶりに帰郷した男は失った愛の幻影を求め、過去と現在、夢と現実が交錯する真夜中の市街地をひとり彷徨う。やはり最大の見どころは、総尺60分にも及ぶ正真正銘のワンカット・シークエンス。しかも、3Dで撮影されているのだから驚かされる。観客も主人公と一体になって、薄暗い闇夜の摩訶不思議な異空間へと迷い込んでいく感覚が新鮮。もちろんそうしたテクニカルな面ばかりでなく、デヴィッド・リンチ的なノワール色を全面に押し出しつつ、過ぎ去りし日々への郷愁や憧憬の想いをたたえた、ビー・ガン監督の映し出す詩的で文学的で幻夢的な世界観にも魅了される。
堂々鳴り物入りの新星シグネチャーモデル
こりゃ相当な野心家だよな――というのが中国新世代、我がビー・ガン初体験の率直な印象。カーウァイ経由の『めまい』的構造&官能。3D長廻しはヴェンダースやゴダール、ヘルツォークの実験と、『ゼロ・グラビティ』等の娯楽アトラクションを同時に受け継ぐもの。つまり映画125年の“世界遺産”――全ての止揚的融合が目指す処か。“最終兵器”に立候補する21世紀型嫡子の佇まい。
何より「途中から3D」とのギミックは同い年(89年生)、グザヴィエ・ドランの『Mommy』の画面サイズ変更を連想させる。自分の欲する表現に合わせて映画の形をカスタマイズする姿勢。そのアタックの強さはやはり同年生の山戸結希とも共振するか?
後半60分、カオスすぎる3D映像体験
長編デビュー作『凱里ブルース』(4月公開)ではワンカットだった後半パートを3Dにするなど、パワーアップのビー・ガン監督作。実際は2回繋げているにしろ、『裸足の季節』の撮影監督による縦横無尽なカメラワークにより、映画館から洞窟、ビリヤード場~広場を駆け抜け、空中ライドやフライングも体験。ウォン・カーウァイとタルコフスキー好きがダダ洩れするカットの連続に、中島みゆき「アザミ嬢のララバイ」、ケリー・チャン「花花宇宙」などのムチャクチャな選曲などのやりたい放題っぷりは、『1917』を超えるカオスな映像体験! 対する前半パートは、軽い伏線もあるが、“おまけ”と割り切り、流れに身を任せるべし。