種をまく人 (2019):映画短評
種をまく人 (2019)現代日本のゴッホ……むしろテオとその家族
シュナーベル『永遠の門 ゴッホの見た未来』を観たばかりだった事もあり、電話ボックスからゴッホに似た男が出てきた時、その佇まいが放つ「世間との乖離」にハッとした。ただ本作は疎外されたアウトサイダーの苦悩に留まらず、そこを支点にコンパスの針を刺して、幾層にも距離を変えながら市民社会をぐるっと描く。
ある「事故」と「嘘」をきっかけにやりきれぬ状況が続く話だが、難しい主題を重ねて人間独りが耐えられる罪の意識や哀しみの量を慎重に見つめている。有機的な生成と周到な設計が絡んだ竹内洋介監督のフィクションの立ち上げは独特。2016年には海外映画祭で話題になっていたが、問いの深度は現在の方が増して映るはずだ。
この短評にはネタバレを含んでいます