his (2020):映画短評
his (2020)ライター2人の平均評価: 3.5
同性パートナーとして社会で生きる道を模索する恋人たち
昨年放送された深夜ドラマの後日譚だが、ストーリー自体は独立した単体作品として成立している。ゲイであることを隠して孤独に生きる青年と、自分を偽ることを辞めて離婚を決意したその元恋人。久しぶりに再会した男性2人が、同性パートナーとして社会で生きる道を模索していく。同性愛の安易なステレオタイプを一切排した作り手の姿勢は評価できるし、自分らしく生きようとすれば誰かを傷つけることは避けられないという趣旨には賛同する。ただその一方で、セクシャリティを語るうえで大切な「性の生臭さ」が感じられないのは物足りないし、カムアウト・シーンにおける主人公の独白も当事者に誤ったメッセージを送りかねない。
軽い気持ちで観ると、火傷する
“今泉力哉監督による、キラキラなBL映画”ぐらい軽い気持ちで観ると、火傷する。逃げられない現実をしっかり描き、後半は親権をめぐる法廷劇が展開されるのだから。『チョコレートドーナツ』との共通項もありながも、誰かの死で感情を煽るような、ありがちな展開にもならない。マイノリティの描き方など、ようやく日本映画もここまで来たか!と思わせる一方、公開中の『mellow』と観比べると、『愛がなんだ』以前には想像できなかった今泉監督の職人技が堪能できる。これまで、やんちゃキャラのイメージが強かった藤原季節が引き算の芝居をしており、『愛がなんだ』の若葉竜也のように新たな輝きを放っているのも見どころだ。