朝が来る (2020):映画短評
朝が来る (2020)ライター5人の平均評価: 4
子供を迎える親と手放す親、それぞれの想いに胸を揺さぶられる
子宝に恵まれない夫婦が特別養子縁組によって男児を迎え入れるものの、その6年後に実の母親を名乗る若い女性が突然現れて息子を返せと迫る。果たして、この怪しげな女性の正体は?彼女の目的とは何なのか?という謎を巡って、他人の子供を育てる決心をした側と自分の子供を手放さねばならなくなった側の複雑な事情を丹念に描きつつ、子供を産むとは、子供を育てるとは、そして親になるとはどういうことなのかを見る者に問う。河瀨監督らしいドキュメンタリーさながらの素朴なリアリズムが、登場人物たちの細やかな感情を鮮やかに浮き彫りにする。これまで河瀨作品をとっつきにくく感じていた向きも、これは素直に胸を揺さぶられるはずだ。
特別養子縁組制度が広く知られますように!
幼い子供の虐待死が報道されるたびに養子縁組や里親制度がもっと知られていたなら結果は違っていたかもと思う。原作は社会派ミステリーという枠組みだが、河瀬直美監督は優しい家族ドラマに仕上げている。特別養子縁組制度によって関わることになった不妊夫婦と出産した中学生それぞれの事情や思いを丁寧に描いているので、各キャラクターに心を寄り添わせることができる。母として、女性としての複雑な思いと強さを体現する永作博美と、脆そうなのに揺るがない芯を感じさせる蒔田彩珠が非常にいい演技を披露する。終盤でやや急ぎすぎた感じがあるものの、特別養子縁組制度を周知する効果に期待したい。
原作を自身のフィールドに落とし込んだ河瀨監督
共同脚本に髙橋泉の名がクレジットされていることで、「ひょっとして?」と思ったが、4年前の「ドラマ版」を軽く超えてくる。サスペンス・タッチの導入部から引きつけられ、明らかになっていくことで心揺さぶられる真実の行方。そのテーマ性や丁寧な演出など、『そして父になる』に通じるものもあるが、是枝裕和監督も絶賛の蒔田彩珠の芝居がとにかくスゴい。そして、絶妙な効果を発揮する実際に養子縁組で子を迎えた親、子を産んだ親の生の声を捉えたドキュメンタリーパートなど、辻村深月の原作を自身のフィールドに落とし込んだ河瀨直美監督。結果、フィルモグラフィーでベスト級と言える仕上がりに昇華させている。
深く、丁寧に語られる、優れたヒューマンドラマ
河瀬監督の映画の中でも、最も完成度の高い作品だと思う。生みの母と育ての母はもちろんのこと、ほかの登場人物もすべて深く掘り下げられている。ゆっくりと、焦らず、本題に至るまでの背景、たとえば不妊における夫側の苦しみや、中学生の恋の純粋さなどを丁寧に語ることで、より感情移入させ、深く引き込んでいく。時間が交錯する展開の仕方も、ミステリー感を高める上で効果的。時にドキュメンタリーを見ているかと錯覚させるリアル感、日本の自然の美しさ、光と影を有効に使うところなどは、いかにも河瀬監督らしい。国境を越えた、優れたヒューマンドラマだ。
母親と母親と
『82年生まれ、キム・ジヨン』『ブリング・ミー・ホーム』などと共にこの秋に母親、母性というもの在り方を突き付けてくるヒューマンサスペンス。
河瀬監督としては原作があるものは初めてではないかと思いますが、原作のエッセンスと河瀬監督のカラーがつぶし合わない形で高いレベルで実りました。
ドキュメンタリー畑出身らしいリアリティと劇映画監督としてのストーリテリングの巧みさをみると、河瀬監督にはこれからも社会派ミステリーを手掛けて欲しいなと素直に思いました。