スキャンダル (2019):映画短評
スキャンダル (2019)ライター6人の平均評価: 4
フェミニズムのゴリ押しではない軽さも味
アメリカのメディアを震撼させたセクハラ事件告発の実話を通して、男性優位社会の現実を浮き彫りにする、#metooの時代に出るべくして出た力作。
出世と引き換えに”社への忠誠”と称して肉体を要求する権力者の横暴が話の軸となるが、当たり前のように下ネタが飛び交うオフィスの風景も切り取られ、セクハラの下地となる男社会の空気がリアルに伝わる。ある場面での胸を締め付けられるような告白は忘れがたい。
とはいえ重いだけではなく、シャーリーズがカメラ目線で観客に語りかけてくる場面にはユーモアも。コメディの才人J・ローチらしい軽妙さが光る。
#MeTooムーブメントの出発点がここに!
TV界に蔓延するセクハラと戦った女性の勇気を称えたい作品。キャリアを賭けて告訴したG・カールソンと状況を俯瞰して有利に事を運んだM・ケリー、新米キャスターそれぞれの心情を慮り、男性社会で女性がサバイブする苦労に同情してしまう。野心を持つ才色兼備女性がもっとも生きにくい業界かもしれない。J・リスゴーがR・エイルズの気色悪さを見事に体現したのが本作のリアルさにつながっている。題材が#MeTooムーブメントの出発点となった事件だけに、C・セロンら女優陣はみな熱演を披露。コメディが得意なJ・ローチ監督だが『トランボ』以来、政治が絡む実話を丁寧に作っていて、とても勉強になる。エンディングは苦い。
観ていて、本当に胸が痛くなるシーンがある
暗黙了解セクハラを描く意味で、じつにわかりやすい構図の今作。業界の根深い問題に対し、メインキャラクター3人の行動や態度の違いが、ドラマの訴求力にうまく機能した。マーゴット・ロビーの見せ場となるシーンは、その表情から自分の立場との葛藤が痛いほど伝わってきて、この問題を生々しく突きつける。
日本公開タイトルどおり、スキャンダル的アピールもしつつ、保守系メディアにおけるLGBT差別など細部のエピソードにも、作り手側の強い意志がみなぎっているし、何より、2016〜17年の事件を速攻で見応えある一品に仕上げた、ハリウッドの瞬発力は素直にリスペクト! 現在進行形の社会を知るうえで、間違いなく必見作。
プロデューサー、シャーリーズ・セロンの手腕も唸る!
88年に起きた世界初のセクハラ訴訟がテーマである『スタンドアップ』の公開が05年だったことを考えると、元凶であるロジャー・エイルズへの訴訟から約3年半で公開された本作には、時代の変化とともに、制作陣の強いメッセージを感じずにはいられない。もちろん、そこには2作で主演を務めたシャーリーズ・セロンのプロデューサーとしての手腕が大きく関係する。3大女優の共演はわずか、リアルさを追求したことで、彼女たちの戦い方は極めて静かでスマート。どこか『スポットライト 世紀のスクープ』にも近いノリは、ややモノ足りないかもしれない。とはいえ、“キャスターびんびん物語”的な、お仕事映画としても楽しめる。
「マネー・ショート」の脚本家だから一筋縄じゃいかない
脚本は「マネー・ショート 華麗なる大逆転」の共同脚本で、人間たちが金銭欲に踊らされる金融界の仕組みをブラック・コメディに仕立てたチャールズ・ランドルフ。なので本作も、セクハラ告発実話モノでありつつ、男女双方の人間たちが出世欲と保身に踊らされる大企業の仕組みを描くスリリングなサスペンスになっていて、エンターテインメントとして面白い。監督も「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」も撮り「オースティン・パワーズ」シリーズの監督でもあるジェイ・ローチで、ブラック・コメディな風味もチラリ。3人3様の立場をとる女性3人をセロン、ロビー、キッドマンと旬の女優たちが演じて、その演技合戦もオイシイ。
日本でも「あの問題」等とモロに重なる
言わばMeTooやTime's Upなど女性のエンパワーメント第一期総括。企画を立ち上げた時は運動が起きる前だったそうで、ハリウッドの現実/時代と併走する力と速度に改めて感嘆。問題意識がマスに降りてくる遙か前、川の上流で捕まえてるってことだろう。舞台は前の大統領選期(16年)だが、今年11月の準備戦にも見える。
いわゆる右派、共和党内部の話ながら、政治的に細かいレイヤーや分断がある見取り図も今っぽい。作風は監督より脚本C・ランドルフ(『マネー・ショート』)の個性が強いか。C・セロンとN・キッドマンの二大姐御に、どこか似た匂いを受け継ぐ後輩M・ロビーの三連星ジェットストリームアタックも強力!