はちどり (2018):映画短評
はちどり (2018)ライター4人の平均評価: 4.3
『パラサイト』の向こう側に屹立するもうひとつのランドマーク
地味に大傑作! 「小さな映画」で今を撃つ「大きな主題」を装備。G・ガーウィグも「私サイズ」の物語をやりつつ、ポレミックに浮上する同時代の世界構造に問題意識を当てる人だが、キム・ボラはショットの精度がズバ抜けた堂々の“新古典派”。仏だとM・ハンセン=ラヴ。伊ではA・ロルヴァケル。この4人の監督が皆80s前半生の女性なのも興味深い。
転換期の94年。“新しい韓国”の主体が立ち上がろうとしている様相が思春期のドラマに重ね合わされ、様々な対立構造や世代の段差が込められる。政治の季節の影を湛えた386世代のヨンジ先生は「佇まいで語る系」。男性中心主義社会では男もこじらせる事を示した脇キャラ群も完璧。
少女の心は、はちどりの羽ばたきのように
柔らかな色彩も映像のリズムも、アメリカのインディ映画の趣き。これには、韓国の大学の映像学科の後、米コロンビア大学院で学んだという監督の経歴も関係しているかもしれないが、それよりも、主人公である中学2年生の女の子の微細な心の揺れを描くときに、出身地は関係ないということなのかもしれない。タイトルのはちどりは、鳥類の中で最も体が小さく、羽が目に見えないほどの高速で羽ばたく。それによく似た、目を凝らさなければ見えない主人公の心の羽ばたきを、映画は静かに映し出していく。そこに、90年代の韓国ソウルの社会の空気の変化が、実際に起きた出来事とともに、そっと重ね合わされていく。その手つきがさりげない。
思春期の少女が見つめる厳しい現実
長編デビュー作であるキム・ボラ監督自身といえる、女子中学生の何気ない日常が淡々と描かれるなか、一人の塾講師とでの出会いにより、新たなドラマが生まれる。思春期の少女が見つめる厳しい現実、自分に無関心な親とは違う大人の存在の大きさなどが、繊細かつ巧みな演出で紡がれており、それがソンス大橋崩落事故という事実によって、大きな転機を迎える。主人公が小学生だった『わたしたち』の延長線上にあると同時に、時代設定的に「82年生まれ、キム・ジヨン」にも繋がっていく一作。138分の尺は若干長さを感じるものの、是枝裕和監督作にも通じる肌触りであることから、それが持ち味になっている。
パラサイト前夜
映画の作られ方、物語、テーマ、時代性あらゆる意味で『パラサイト』の前夜とい言える作品でしょう。
家族や教育、貧富の差や経済発展の影など、相通じる部分が多くあると感じます。
映像の力を信じて説明過多にならないところも初窯変作品とは思えない作りです。
劇中の韓国社会の前後の出来事や社会的風土について多少、予習が必要でありますが、見応えのある作品でした。キム・ボラ監督の短編『リコーダーのテスト』が前日談に当たると言うことでそちらも見てみたいと思うと同時に、ヒロイン・ウニのこれからも見たいところです。