薬の神じゃない! (2018):映画短評
薬の神じゃない! (2018)ライター3人の平均評価: 3.7
偽薬事件の顛末から浮かび上がる中国社会の闇と歪み
超高額な正規の医薬品に手が出せず、死を待つしかない貧しい患者たちが、輸入代行業者に頼んで中国国内では未認可のジェネリック医薬品を大量輸入したことから、やがて国や医薬品業界を動かすほどの騒動へと発展していく。’14年に中国で実際に起きた偽薬事件を基にした作品。一歩間違えると政府批判にもつながりかねない作品だが、それでも中国当局が本作の公開を許可したのは、独善的な拝金主義の輸入代行業者が社会正義に目覚めていく姿に軸を置いた人情ドラマとしてまとめ上げているからだろう。それでもなお、中国社会に横行する利益至上主義や経済格差といった深刻な問題に鋭く斬り込む映画として見応え十分だ。
“中国版『ダラス・バイヤーズクラブ』”どころじゃない!
ハゲ頭が特徴的なシュー・ジェンの髪がフサフサなだけで笑えるが、彼をブレイクさせた『クレイジー・ストーン~翡翠狂騒曲~』のニン・ハオ監督がプロデューサーで参加しており、ストーリーの面白さもお墨付き! 白血病の治療薬であるインド産のジェネリック薬を巡る実話を基にした話だけに、“中国版『ダラス・バイヤーズクラブ』”ともいえるが、こちらは金儲けのつもりがマジになってしまう主人公の下に集まったはみだし者の関係性が、より泥臭く、人情ドラマも熱い。さらに“本物か偽物かは、認証がすべて!”な中国政府の胡散臭さも明らかになったりと、エンタメと社会派を行ったり来たりの117分である。
中国映画の変化も、ジワリと実感
高価な薬を手に入れられない患者のために、安価なジェネリック薬を密輸入する。バリバリの社会派テーマを備えながら、基本は徹底してエンタメのノリ。中国で年間3位のヒットというのもうなずける。『鵞鳥湖の夜』といい、体制批判の部分も感じさせる作品が検閲を通過し、観客に広く届くという点で、わずかながら中国映画界の変化を実感。
俳優たちはキャラ立ちを意識した、やや過剰な演技ながら、思わず「主人公はムロツヨシみたい!」などと想像させる親しみやすさがあるのも事実。
もちろんこれはコロナ禍以前の映画だが、マスクを着けた患者たちの光景が現在と地続きになる。エンドロールを含め、奇妙なリアル感が迫ってくる一作だ。