ANNA/アナ (2019):映画短評
ANNA/アナ (2019)ライター6人の平均評価: 3.3
フェミニズム色を強く打ち出した新たな『ニキータ』
経済が破綻状態だったソ連時代末期のロシア、貧困とDVのどん底生活からKGBに拾われた女性アナは冷酷非情なスパイとなるものの、人間らしい自由な生活を手に入れるためKGBとCIAを手玉に取っていく。教育係がベテラン女性スパイという点を含め、リュック・ベッソン自身による『ニキータ』のリブートという印象だが、しかしフェミニズム的な視点を強く打ち出しているところが大きな違いか。『レッド・スパロー』や『アトミック・ブロンド』の後だけに新鮮味はないものの、スパイ・アクションのツボを押さえた演出は安定感抜群。ロシアのトップ俳優アレクサンドル・ペトロフがヒロインのDV夫役を演じている。
ベッソン監督流の最強ヒロイン、最新版!
「ニキータ」「アンジェラ」「LUCY/ルーシー」と、リュック・ベッソン監督が描き続けて来た強く美しいヒロインの最新版。主演のサッシャ・ルスの顔立ちが、古典的な美女ではないところも今っぽい。立ち方、歩き方といった全身での表現が美しく、それを意識した画作りもたっぷり。アクションシーンのコリオグラフィーには、彼女の長い手足を美しく見せる形と動きが意識されている。彼女がウィッグとメイクで次から次へとまるで別人のように変貌するのも楽しい。
スパイものらしい裏切り裏切られのドラマをさらに面白くしてくれるのが、豪華な共演陣。エヴァンスVSマーフィに加えて、ヘレン・ミレンがさすがの貫禄。
冷徹さが味のベッソン流女スパイ活劇
『レッド・スパロー』の後では既視感がなくもないが、まぎれもないベッソン印で、さすがのヒロイン・アクション。
初任務となるレストランでの大立ち回りを筆頭に、アクションにはとにかくキレがあるし、スレンダーなS・ルスの立ち回りとポージングがイチイチ、キマる。スタイリッシュな……と形容されることが多いベッソンらしい見せ場の連打。
ベッソン作品としては『ニキータ』を連想させるが、同作のロマンを徹底排除した点が新味。恋愛が心の拠り所ではなく、“武器”にしかならない冷徹さに、『ニキータ』から約30年を経た時代の複雑さが透けて見え、興味深い。
リュック・ベッソン節健在
KGBによって創り上げられた凄腕の殺し屋アナ。
キャラクターの出自など今までのリュック・ベッソン映画でも見てきたキャラクター造形。
この変わらず感、お馴染み感を好意的に見るか、いい加減飽きたと見るかは意見が分かれるところですが、まぁ楽しいです。
主演のスーパーモデルサッシャ・ルスこそ演技の素人ですが、ルーク・エヴァンス、キリアン・マーフィー、ヘレン・ミレンと豪華な並びが、ジャンル映画と言う部分をちゃんと分かってくれたうえでの妙演を見せてくれます。
やっぱり、ボブが好き!
『ニキータ』から30年、稀にみる地雷映画『LUCY/ルーシー』を経たベッソンが放つ男2人を行き来する女暗殺者。ほぼセルフ・リブートなため、妙な安定感もありつつ、KGBスパイとスーパーモデルのWワーク設定など、ライトな『レッド・スパロー』として観ると、なかなか楽しめる。アクションシーンは『悪女 AKUJO』ほどインパクトなく、時間軸をイジった構成にはウザさを感じるなか、アンナ役のサッシャ・ルスより色気を感じるキリアン・マーフィーや、「ピーナッツ」のマーシーみたいな風貌のヘレン・ミレンなど、助演陣に助けられてる感アリ。にしても、変装のヅラがボブばかりって、いつまでマチルダ引っ張ってるんだよ!
L・ベッソンが考えるフェミニズムには違和感あり
KGBの美人暗殺者のサバイバル劇は、『ニキータ』や『レオン』に通じる部分が多く、派手なアクション場面もL・ベッソン監督らしい。ある意味、成長してない?
そして、肝心のヒロイン造形に疑問符がつく。悲惨な人生から抜け出すためなら手段を厭わないのはいいのだが、性的モラルや対人関係がまさに、俺様な男のそれ。女性が強い映画が受ける風潮とはいえ、J・ボンドを女性にすればいいってもんじゃなく、フェミニズムがわかってない。体当たりで熱演しているモデル出身のサッシャ・ルスがちょっと気の毒だ。男優陣の扱いも雑すぎ。とはいえ、見終わった後に男女間で意見を戦わせられるので、デート・ムービーにお勧めしたい。