きっと、またあえる (2019):映画短評
きっと、またあえる (2019)ライター4人の平均評価: 4
スシャント・シン・ラージプート追悼
若者が人生を左右するほどの熾烈な受験競争にさらされたインド。受験に失敗した若者が自殺未遂を起こして病院へ担ぎ込まれ、励ましに集まった両親の大学時代の仲間たちが、自らの「負け犬時代」を語って聞かせる。インドが経済発展を始めたばかりの’90年代初頭と、すっかり社会が豊かになった現在を行き来しながら描かれるのは、人生には勝つことよりもずっと大切なものがある、失敗したからといってそこで全てが終わるわけじゃないということ。青春おバカ映画ノリのフラッシュバック・シーンがまた楽しい。主演俳優スシャント・シン・ラージプートも爽やかでチャーミング。先ごろ若くして亡くなったのが惜しまれる。
学園コメディにスポーツ試合、ノスタルジーまでてんこ盛り
基本的には、現代インドの受験地獄を背景に「失敗しても大丈夫」という前向きなメッセージを送る映画。それを、主人公が受験に失敗した息子に自分の学生時代を語るという形で描いて、現在の出来事と、過去の学生時代、2つの物語が展開。さらに学生時代のドラマには「学園コメディ」「はぐれ者集合ドラマ」「スポーツ試合バトル」という王道の娯楽ドラマ要素に「ノスタルジー」まで掛け合わせられるというサービス大会。思ったようにストーリーが進行していく予定調和ぶりが気持ちいい。現代が舞台でも歌はしっかり歌われ、さすがに踊りはないのかと思ったら、ドラマ終了後に集合乱舞シーンが! この場面のちょっとした仕掛けも楽しい。
ゆっくりいこう
まさに『きっと、うまくいく』(09年)&『ダンガル きっと、つよくなる』(16年)というW名作の発展継承! 大国が経済成長に向かってギアを入れだした転換期=90年代に軸芯を置き、苛烈な受験戦争や競争社会を顧みる。そこにスポーツコメディの興奮と感動をひたすら判り易く接ぎ木してみせる。
学生寮生活の大らかな祝祭感が素晴らしい。超難関の工科大学だが、そこに「ルーザー(負け犬)」という緩衝材を挟み込んで肩肘張ったプレッシャーを緩和する。少し立ち止まって、一休み一休み。これは奇しくも極めてコロナ禍的なメッセージだ。経済活動がスローダウンして、インドの空が晴れたとのニュースがあったことを想い出した。
学生時代の友だちに会いたくなる心温まる人間ドラマ
『きっと、うまくいく』と同じくインドの工科大学の寮を舞台にした青春劇で、「頑張りすぎないで」というメッセージは受験疲れした人に響くはず。不合格を苦に自殺を図った息子に生きる気力を取り戻させるため父親アニから助けを求められた旧友が“負け犬”時代を語って聞かせる展開で、回想ごとに50代になった元大学生と瀕死の息子がポジティブになる仕掛け。観客はきっと映画を見ながら、個性的でユニークなキャラクターと学生時代の友人を重ね合わせ、「会いたいな〜」となるはず。N・ティワーリー監督の学生時代の経験がネタ元なのでどの逸話も愛情と笑いにあふれているし、役者全員のチャーミングな快演を披露する。