ライブリポート (2019):映画短評
ライブリポート (2019)ライター5人の平均評価: 3.2
アメリカ社会の今を映し出すソリッドな犯罪アクション
権威主義的で弱者に冷たい警察組織の傲慢な体質や、報道機関として不誠実な大手メディア(本作の場合はテレビ)の視聴率至上主義に痛烈な批判の目を向けつつ、組織からつま弾きにされた昔気質の熱血警察官と志の高いウェブメディアの女性レポーターがタッグを組み、誘拐事件の被害者を救出するために奔走する。64分というタイムリミットにアクションとサスペンスをたっぷり詰め込んだ演出に無駄はなく、スティーヴン・C・ミラー監督にとっては前作『大脱出2』の汚名挽回という感じだろうか。現在のBLM運動と直接的な関連こそないものの、しかしその背景の一部を垣間見れるようにも思う。
考えさせる暇もないほどのスピードで展開
ターミネーターかと思うほど不死身の敵。そいつにしたら若い女の子などひとひねりのはずなのに、そうはならない。ほかにも「いやこれはないでしょ」的シーンが満載。後になってわかる犯人の動機も現実味が薄い。だが、面倒くさいことは考えるなとでも言わんばかりのスピードでカーチェイスやら銃撃戦やら殴り合いやら爆発やらがあり、実際、ついついそれに巻き込まれてしまう。アーロン・エッカートがこてんぱんにやられ続けるので、応援せざるを得なくなるというのが正しいか。現実からエスケープをさせてくれるポップコーン映画としては十分合格だ。
アップテンポで押し切るストリート・アクション
小気味よさの点では文句なしで、とにかく一気に見せ切る。アラバマ州バーミングハムでのロケ効果で街の臨場感がビンビンに感じられるし、ネット配信用に撮られているという設定のカメラに加え、空撮の機動力も生きた。
市街地でのガンファイトやカー・アクションは『ヒート』ばりで、こちらも見るべきものがある。大通りでも構わず、完全武装で銃撃しまくり武術もイケる悪役の豪快な武闘派ぶりもいい。
少々都合よく話が進む点や、ネット中継の特性を活かしきれていないのは残念だが、アップテンポの展開の中ではさほど気にならない。年齢を重ねて枯れた渋みが出てきたA・エッカートの存在感も味。
SNSパワーの良い面を強調し過ぎかな
過去の過ちを悔いる警察官が誘拐犯を追う姿をライブストリーミングで配信する設定は新しい。が、同行する女性レポーターとのギャップが生むユーモアや警察サイドの不首尾、主人公を慕う少年の描き方などはお決まりな感じ。警察、ダメ過ぎない?という擬問も浮かぶ。もちろん手がかりの一つとなる黒人トランジェンダーの描き方はユニークだし、追跡シーンや格闘シーンの撮り方はかっこいい。主演A・エッカートも体を張った熱演を披露しており、50代の頑張りに思わず拍手! 相対的に楽しめるサスペンスなのだが、SNSパワーの負の部分を無視している感は否めない。そこはもう少し、監督に突っこんで欲しかった。
アナログ&デジタル世代のB級バディムービー
あの『大脱出2』のスティーヴン・C・ミラー監督作ではあるが、あそこまでトンデモでなく、かなり正統な作りのB級アクション。POVショットを使った肉弾戦や『ヒート』を意識した激しい市街戦など、さまざまなシチュエーションのアクションが用意。まるで「逃亡中」のような劇伴の効果もあり、タイムリミット・サスペンスとして、ほどよい緊張感が持続する。とはいえ、FPSゲーム「バトルフィールド2」の脚本家だけにディテールの甘さが目立ち、TV局も巻き込んだ情報戦の設定も、あまり生かされず。あくまでも、SNSに疎いおっさん警官と一発当てたいイマドキなライブ配信者のバディムービーとして楽しむべし。