佐々木、イン、マイマイン (2020):映画短評
佐々木、イン、マイマイン (2020)ライター4人の平均評価: 4.3
青春時代の甘い傷みが蘇る感覚が、観た後もしばらく浸みわたる
特異なキャラが周囲の人生を多かれ少なかれ変える点で、横道世之介を連想させる佐々木だが、記憶にやきつく残像はより生々しく、パワフル。映画を観ている側も多かれ少なかれ、何年も、何十年も会っていない記憶の中の友人と、脳内で重ねてしまう。その意味で青春映画のハードルを軽々とクリア。
高校時代と10年後、その間を行き来する展開だが、時間の切り替わり、シーンのボリューム、流れが主人公の思いをなぞっており、すんなりと肉体にしみてくる。
スマホがわずかに出てくる程度で、全体的に時制を特定しない「懐かしさ」が際立つのは、おそらく作り手の計算。結果、観る側の年代を選ばない。
シーンと音楽の被せ方など細部も秀逸。
これからを牽引していく俳優たちが「惑星直列した」最重要作
次号のキネ旬にも書いたのだが、本作の脚本を共同執筆した細川岳と監督の内山拓也は『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97)で頭角を現した頃のマット・デイモンとベン・アフレックを想起させ、その業績にも肉薄していると思う。そして劇中で藤原季節と細川岳が体現する「魂のリレー」、つまり主人公と心の友「佐々木」の関係性も『グッド・ウィル〜』の二人にどこか近しく、激しく胸を衝かれる。
映画を動かす挿話として導入、同じく“フラッシュバック”を巧みに使ったテネシー・ウィリアムズの古典戯曲『ロング・グッドバイ』が実に効果的。歌舞いたラストは男達もイイが、紅一点、河合優実(のリアクション)がまたグッときた。
あいつ今何してる?
どこの高校のクラスにもいた“お調子者”。そんな佐々木をめぐる「あいつ今何してる?」ともいえる物語。作品ごとに存在感を増してくる藤原季節と脚本も手掛けた細川岳のコンビを始め、同世代による映画作りの面白さは伝わってくる。ただ、ストーリー的にはインディーズが陥りやすい“地方都市あるある”の域を出ておらず、新人監督ならでのエピソードの盛り込み感も目立つ。ただ、その不器用さすら支持される魅力も秘めているのも事実。意外性のあるキャスティングや、徐々に熱を帯び始める後半からクライマックスにかけては高く評価したいが、そこに至るまでの壮大なる伏線としてみても、118分の尺はちと長い。
「チーム男子」のエモーションと、卓越した設計力!
高熱量にして組成は極めて精緻。King Gnuの『The hole』などMVが有名な新鋭監督・内山拓也(92年生)は、骨太の新古典派として映画界の最前線に浮上することになる。『ヴァニタス』『青い、森』から連なる死の想念が貼り付いた青春群像。自己不全に苛まれるモラトリアム青年・悠二(藤原季節)の内面の運動と連結して、記憶(OMOIDE IN MY HEAD)の中のヒーロー、「我が心の佐々木」(細川岳)が再生する。
『チャンピオン』の引用アリだが、陽気さと影の表裏一体など、内山が影響を受けたと公言する川島雄三の『幕末太陽傳』との通底に注目。フランキー堺扮する道化の佐平次は、ほぼ「佐々木」だ!