あのこは貴族 (2021):映画短評
あのこは貴族 (2021)ライター6人の平均評価: 4.3
『はちどり』に負けず劣らずの傑作
日本映画で描かれる”女性の生きづらさ”に不満だった。決まってその女性は性被害を受けていたり、風俗で働いていたり。劇的で分かりやすく、男性客を惹きつける艶っぽいシーンも挿入できるからに違いない。その古い価値観を刷新する映画が誕生したことに嬉し泣き。性別による”こうあるべき”は職業も階級も出身地も、さらには男女関わらず存在することを淡々と、しかし鋭い視点で描写する。それを体現するのは門脇麦、水原希子、石橋静河という海外の文化を吸収して育った新世代の女優たち。わずかもしれないが日本映画の、いや日本社会の光明を見たり。
仲良くなるのではなく"認め合う"関係が気持ちいい
地方出身者が上京して大学で初遭遇する"貴族"=東京の伝統ある家系で育った同級生たちの日々の生活を描くシーンは、その世界とは無縁の目から見ると、まるで異世界SFのような新奇な面白さ。それも楽しいが、映画を見ているとタイトルには「続き」があり、"あのこは貴族"だけど貴族も庶民も同じようなものだったりして、という物語にも見えてくる。中心人物は2人、1人は"貴族"社会で育った女子、もう1人は地方出身女子。2人には、各集団の価値観にどっぷり染まっているわけではないという共通点があり、それぞれのやり方で別の道を行く。仲良くなるのとは違うが敵対もせず、互いに認め合う、その関係のあり方が気持ちいい。
ガーウィグ、キム・ボラ、岨手由貴子
素晴らしい出来! 山内マリコの傑作小説を豊かな映画空間へと昇華させた岨手由貴子(83年生)の新作長編は、同世代であるグレタ・ガーウィグの諸作(ひとつ挙げるなら脚本・主演作『フランシス・ハ』か)や、キム・ボラ『はちどり』等と響き合うもの。階層や性差、世代間などの衝突から、分断ではなく共生の新しい可能性を見据える。
門脇麦×水原希子という意表を突いたキャスティングが最高で、固有性と入れ替え可能性が絶妙なバランスで両立。ミレニアル世代の『東京ガールズブラボー』といった印象もあり。「結婚」を核にすると、岨手の前作『グッド・ストライプス』とは同軸反転の趣で、日常生活に潜む政治意識は確実に連続している。
何気なく発せられる言葉にハッとする
タイトル通り、“お嬢様あるある”を嘘臭くなく描くほか、日頃から富裕層と地方出身者が感じる壁、「結婚」についてなど、男と女が感じる壁、そして価値観の違いをも、キッチリ丁寧に描いていく。『ここは退屈迎えに来て』に続き、門脇麦と山内マリコ原作との相性は抜群だが、対する水原希子もこれまでのイメージをブッ壊してくれるほどの好演。そんな一見、反対に見えるキャスティングも見事だが、なにより岨手由貴子監督の力量が光る。男性キャラについては賛否ありそうだが、淡々と進んでいく物語の中、「私たちって、東京の養分だよね」など、何気なく発せられる言葉に時折ハッとさせられるほど、力強い一作。
生き方を模索中の若い女性は必見です
山内マリコ作品のファンとしても期待を裏切られない面白さで、小説よりしっとりと仕上がっている。松濤の箱入り娘・華子と地方出身のキャリア女性・美紀を軸にさまざまな人生観を持つ20代後半の女性が登場。結婚できずに焦ったり、与えられた人生を謳歌したり、才能を活かして自立したり。女性たちが感じる外圧と内圧に「わかるよ」と共感。華子にかけられたある種の呪縛を解くのは? 異種のものに出会い、新たな世界を拓く化学反応のような関係性が清々しい。門脇麦と水原希子の組み合わせも素敵だ。また日本に厳然として存在する社会階級、家柄という頸木のある男性の結婚観もよくわかる。若い女性にとっては、人生教科書となるはず。
東京の空の下で
素直に見ておいて良かったと思える映画。
カテゴライズすればガールズムービー、シスターフッドムービ言うことになるのだけれど、メインの二人がここまで交じり合わないのもちょっとないような気がします。
だからと言って映画が破綻しているわけでもなく、最後まで飽きずに見せてくれます。
門脇麦、水原希子に加えて石橋静河、山下リオも好演。高良健吾のポイント抑えた演技も光ります。
違う階層に居ても、人々はそれぞれの方法で生きている。当たり前のそんなことを改めて押してくれる一本です。