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ある画家の数奇な運命 (2018):映画短評

ある画家の数奇な運命 (2018)

2020年10月2日公開 189分

ある画家の数奇な運命
(C) 2018 PERGAMON FILM GMBH & CO. KG / WIEDEMANN & BERG FILM GMBH & CO. KG

ライター3人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4

なかざわひでゆき

時代の激動に抗う芸術家が、真実を見極め魂の自由を得るまで

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 ドイツ現代美術の巨匠ゲルハルト・リヒターの半生をモデルに、ナチス政権下に生まれ育ち東西分裂に翻弄された若者が、自分自身の芸術=真実を見出すまでの苦難が描かれる。その原点は、若くして精神疾患と診断され、ナチスによって動物のごとく殺処分された心優しい叔母の存在。権力が一方的に芸術の良し悪しを決めるような国家は、人間の価値だって勝手に決めて命を軽んじる。しかし、権力など呆気なく移り変わるもの。上から押しつけられた正解を無批判に妄信せず、全てを疑って己の良心と直感に従う。でなければ真実など見極められないのだろう。時代の激動に抗う芸術家が魂の自由を得るまでの物語。3時間を超える長尺もあっという間だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
斉藤 博昭

独自のアートとはこうして生まれるのか。その瞬間にすべてが集約

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

3時間という長尺で、たしかに前半のナチ政権下、主人公の少年時代はどこに物語が向かうか不可解だ。しかし癒されまくる田園風景、なぜか美しい空襲シーンなど、監督のビジュアルセンスで持ちこたえる。やがて切実なラブストーリーを経て、自らのアートの方向性を切り開く後半はがぜん、映画全体が躍動していく! とくに1960年代、西ドイツの美術学校で彼が遭遇する斬新な作品の数々、そこから受ける強烈なインスピレーション、教授からの確信的な教えを経て、アートがどのように生まれるのかを描く過程はじつにドラマチック。そこに前半、中盤のエピソードが網目のように絡んでいく盛り上がりは、大河ロマン的どっしりとした見ごたえだ。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

変わっていくもの、変わらないもの

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 長い時間の経過の中で、刻々と変化していくものと、ずっと変わらないものがある。この映画に3時間9分という長さが必要だったのは、それを描くためだろう。
 物語には幾つもの層がある。ある幼い少年が試行錯誤の後に自分の画を描くに至るまでの物語であり、彼が幼少期のある事件に関わった人物を告発する物語でもある。同時に、1930年代から1960年代にかけてのドイツの社会的政治的変化を描く物語でもある。さらに、その時代の推移の中で、"美術"というものの扱われ方がどう変わったのか、また、主人公にとってどのようなもの変化していったのかを描く物語でもある。このさまざまな移り変わりのための3時間9分なのだ。

この短評にはネタバレを含んでいます
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