エイブのキッチンストーリー (2019):映画短評
エイブのキッチンストーリー (2019)ライター3人の平均評価: 3
料理も人種もフュージョンしちゃえばいいよね
政治的・宗教的に異なる主張の家族に囲まれた少年エイブと家族の成長と和解という、分断が進むアメリカ人にこそ見て欲しい物語だ。家族団欒で楽しいはずの食卓の話題が政治や文化、宗教なのに驚く。少年の心もさぞや傷ついているはずで、下手すればゴームグロウン・テロリストになるかもと危惧するほど。が、今どきのアメリカンな少年の解決法はかなりポップで、見ているこちらの気分もアガる。料理の場面は楽しいし、スパイスの使い方なども興味深かった。ブラジル人シェフのフュージョン料理は説得力があるし、NYの屋台料理が恋しくなる! 展開に甘さはあるものの、人種もフュージョンしちゃえば差別意識も減少するかもと思った次第。
いかにもニューヨークらしい物語
ユダヤ人の母とムスリムの父のもとに生まれた少年エイブは、常にふたつの文化と宗教の間で板挟み。そんな彼に生きがいをくれるのは、フュージョン料理を得意とするブラジル移民のシェフ。いかにも、異文化が共存し、衝突も起こるニューヨークらしさを感じさせる物語だ。エイブが料理上手なグルメで、美味しそうな食べ物が続々出てくるのもビジュアル的に楽しく、食べ物は人々の心をつなぐのだということを、あらためて実感させてくれる。まっすぐで前向きな少年が夢を追いかけるというポジティブな成長物語としても良い。素直さのあるノア・シュナップのキャスティングは大正解。
ノア・シュナップの純真無垢な魅力がたっぷり
12歳の主人公の純心さ、まっすぐな気持ちが説得力を持つのは、ノア・シュナップが演じているからだろう。この俳優がこれからどのように成長するのかは未知数だが、この時点では純真無垢な役がよく似合う。彼が注目を集めた「ストレンジャー・シングス 未知の世界」でも、少年4人の中でもっとも感受性が強く、邪悪な存在に魅入られてしまうウィル役だった。今回も料理をするのが大好きな12歳の少年という設定がすんなりくる。そんな主人公が中心にいるので、"食"という、人間の生命維持の基盤であり、歴史や文化、個人的嗜好に強く結びついたものを扱いながら、ストーリーが重くなりすぎず、爽やか。ラストが甘すぎないのもいい。