天国にちがいない (2019):映画短評
天国にちがいない (2019)ライター2人の平均評価: 4.5
21世紀の世相をシュールな笑いで見つめるスケッチ集的コメディ
現代のチャップリンとも、ジャック・タチとも呼ばれるエリア・スレイマンの監督・主演作。パレスチナのナザレに住む映画監督スレイマンが、新作の企画を売り込むためパリやニューヨークを訪れるという基本プロットを軸にしつつ、そんな彼が各地で遭遇するちょっと不思議な光景や奇妙な人々のエピソードをスケッチ集的なスタイルで綴っていく。そこから浮かび上がるのは、世界中の人々が不安や緊張や不信を胸の内に抱えながらもささやかな日常を送る21世紀の世相。クスッと笑えるシュールなユーモアのさじ加減と、無口でポーカーフェイスな傍観者スレイマンの存在が醸し出す悲哀がなんとも絶妙でクセになる。
故郷パレスチナと「ほぼ同じ」な光景がシュールに提示される
『D.I.』(02年)の必然的な反転。「過去の私の映画が、パレスチナを世界の縮図として描くことを目指していたなら、今回は世界をパレスチナの縮図として提示しようとしている」――このスレイマン本人の解説が全てだろう。急速に進むグローバリズムに対する、ローカリズム≒アイデンティティの混乱。それでもパリやNYでは「パレスチナ独特の何か」を求められる皮肉。
ちなみにG・ガルシア・ベルナルが本人役で登場。映画会社のロビーでプロデューサー(X・ドラン作品の製作で知られるナンシー・グラント)に言い間違いでルビッチの『天国は待ってくれる』(43年)に触れるが、スレイマンは同様応用の洒脱を意識しているのでは。