ラーヤと龍の王国 (2021):映画短評
ラーヤと龍の王国 (2021)ライター3人の平均評価: 3.7
"アジア的なるもの"を描く色、形、所作が美しい
現実に存在する特定の国ではない、"概念としてのアジア的な世界"を描く映像が魅了する。ジャワの影絵芝居を連想させる映像で始まり、夜の河に花を流し、東洋武術の動きで格闘する。色も形も所作も、アジアの意匠を下敷きにしつつ、アニメーションという形式だからこその抽象化、デザイン化を駆使。その抽象化を、石の表面の手触りまで伝わるディティールの緻密さが支えている。
そして人々はみな"人間を超える崇高なもの"---この物語ではそれは"龍"の形をしている---を敬う。その"敬う"という概念が身についているので、誰もがそれに出会うとおのずと敬いの仕草をする。この現実のアジアでは失われつつある所作が美しい。
ジブリ臭漂う序盤から一転、しっかり『ベイマックス』監督作
相棒(トゥクトゥク!)の背に乗り、荒野を疾走するラーヤの姿は、王蟲に乗った『ナウシカ』だわ、『ラピュタ』の飛行石のような石が出るわと、覚めがちな序盤だが、伝説の水龍・シスー登場から転調。確かに『千と千尋』のハク様感もあるが、オークワフィナのマシンガントークが炸裂し、どちらかというと『ムーラン』のムーシューに近い。その後も、タイやベトナムのアクション映画好きはたまらない動きを繰り出し、『ボス・ベイビー』要素も入った赤ちゃん詐欺師・ノイらが加わり、『ベイマックス』のドン・ホール監督らしいチーム戦も盛り上がる。『ソウルフル・ワールド』延長戦のような短編『あの頃をもう一度』もアツい!
伝統とチャレンジが噛み合って、安心して身を委ねられる
アジアンテイスト、女性キャラ複数メインと、まさに今どきの流れを前面に押し出し、新鮮な感覚が充満。最初こそ、神話的世界とミスマッチなノリのメインキャラに戸惑ったりもするものの、見慣れてくれば独特の味が癖になる。このあたり、『ベイマックス』っぽくてディズニーの伝統を実感。
さらに『ロード・オブ・ザ・リング』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』も頭をよぎる、寄せ集めチームワークの楽しさが、予想どおりとはいえ感動のツボに発展するのが映画的快感。
行く先々の絶景&魔景は、できるだけ大きな画面で味わうことを推奨。そして劇場のみ併映の短編が、ダンス+アニメの新世界に挑み、ときめき感動度200%!