夏時間 (2019):映画短評
夏時間 (2019)ライター2人の平均評価: 4
ワケあり一家の風変わりなバカンス
1990年生まれのユン・ダンビ監督の長編デビュー作。よく比較されているキム・ボラ監督『はちどり』のミクロ(個)とマクロ(社会/歴史/政治)を行き来する設計より、もっとパーソナルな視座で、家族の複雑な肖像と、多感な少女の心情にフォーカスした内容。経済的なしくじりを背景に、宙吊り状態にある家族の面々がひとつ屋根の下に集うシチュエイションが形成され、日常風景の中にいろんな喪失感が埋め込まれていく。
これはフランス映画的な「バカンスもの」の一種と言えるのではないか。ふくれっ面の少女の憂鬱なひと夏。主演のチェ・ジョンウンは『なまいきシャルロット』で映画初主演した時のC・ゲンズブールを彷彿とさせる。
夏、少女は少し大人になる
父親が家を失ったため、祖父の家に身を寄せることになった少女オクジュの胸に去来する思いが痛いほどよくわかった。家を出た母親への複雑な思いやノー天気に思える弟への苛立ち、自我が芽生えてきた彼女の“可愛くなりたい願望”と初恋。祖父の家の一室に蚊帳という「マイ砦」を確保して、周囲と距離を置きながらも子供っぽさが残るオクジュが愛おしい。彼女を14〜15歳の自分と重ねる観客は多いだろう。家庭菜園で採れた野菜やフルーツを味わい、一家団欒が楽しいはずの夏休みに、少しだけ大人になる少女が眩しい。彼女を見守る大人たちも実にリアルに描かれる。これがデビューというユン・ダンビ監督の才能に惚れた!