迷子になった拳 (2020):映画短評
迷子になった拳 (2020)ライター2人の平均評価: 4
闘うろくでなしの唄
タートル今田名義でも知られる奇才・今田哲史の熱作ドキュメンタリー。2016年から“軍事政権ではなかった時期”のミャンマーと日本を往来しながら、ラウェイに挑戦する2人の日本人選手を中心にリアルストーリーが進んでいく。数年の記録なのだが、その間にめっちゃいろんな事が起こる。こっちの了解を現実がどんどん超えていくような早さと激しさが凄まじい!
「判定決着」がない――最後までリングに立っていれば勇者と讃えられるラウェイの様式が、濃密な生を凝縮して燃やす面々に呼応する。ナレーションの代わりにテロップを使ったV&R~ハマジム的文体による今田監督の一人称「僕」は、苛烈な早廻しの人生劇場を目撃していくのだ。
“世界一美しく神聖な競技”に魅せられた人々
KO以外の判定による勝敗はなく、投げ技も頭突きも、(故意でなければ)金的もOK! そんな“世界一美しく神聖な競技”と呼ばれるミャンマーの「ラウェイ」の魅力にとりつかれた人々のさまざまな人間模様。いろんな意味で“格闘技界のはしの方”ともいえるが、カメラは軸となる2人のファイターを味方するわけでもなく、対戦相手や運営関係者にもしっかり迫る。さらに、監督自らのツッコミもあり、青臭さや泥臭さがダイレクトに伝わってくるだけでなく、興行界の裏側も見えてくる。ドキュメンタリーならではの先の読めないサプライズも起こり、格闘技に興味のない人も引き付けられる一作に仕上がっている。