海辺の彼女たち (2020):映画短評
海辺の彼女たち (2020)ライター2人の平均評価: 5
人間をただの労働力として搾取する日本社会の現実
技能実習生として来日した3人の若いベトナム人女性。1日15時間労働で残業代も休日もなし、タコ部屋へ押し込められて昼夜も分からず、給料からは勝手に経費が引かれる。そんな地獄のような職場から逃げ出し彼女らは、ブローカーの手引きでようやくまともな仕事にありつくが、しかしそこには不法就労者としての厳しい現実が待ち受ける。実話から着想を得たというフィクション。しかし、密着ドキュメンタリーさながらの映像が、今も日本全国のそこかしこに暮らすであろう「彼女たち」の存在をリアルに実感させる。人間をただの労働力として搾取する日本社会の現実は、なにも外国人だけに限らない。だからこそ重くのしかかるものがある。
日本のシステムの縁から世界に手を伸ばす傑作
藤元明緒監督(1988年生)の長編第2作。ミャンマー人一家を描く『僕の帰る場所』に続き、世界的な潮流でもある(だが日本では手薄な)「移民」を主題とするが、前作から表現が一気に研ぎ澄まされたことに驚嘆した。技能実習生のベトナム人女性3人組が極寒の津軽半島に行く。ワンシーンワンカットで捉えた88分のシンプルな物語に「ひとつの現実」がソリッドに凝縮されている。
言わばダンデンヌ兄弟級の精度と強度をガチで獲得。音楽も無く、環境音がリアルなサウンドスケープとして体に染みる。主人公格のフォンが独り、雪降る中を歩いていくシーンで選択した「長さ」が白眉だ。岸健太朗の素晴らしい撮影はまさに映画の生命線。