ベルリン・アレクサンダープラッツ (2020):映画短評
ベルリン・アレクサンダープラッツ (2020)ライター2人の平均評価: 4
まっとうでありたい、でも、まっとうになれない
3時間の長尺だが全編に緊張感が宿り、一気に見てしまった。この緊張は、まっとうに生きたいと願う不法移民の青年の不安定さからくる。
不法入国というだけで新生活はマイナスからのスタートで、まともな職には就けず、悪事に手を染めるしかない。そんな主人公を支配する麻薬売人の元締。善でありたい者と悪にしかなれない者、愛を求める者と愛を知らない者。そんな彼らの関係性も興味深い。
90年以上前に書かれた原作の舞台を現代に置き換えているものの、清濁併せ呑む大都市の実態や善と悪の葛藤というテーマは普遍。そこにリアリティが息づくのは難民二世であり、街の裏表を見てきた監督の視線ゆえか。力作!
原作を知らずに見ても、文学の匂いがする
原作が1929年刊行の名作小説で、その小説を1980年代にファスビンダーがTVシリーズ化していることなど知らなくても、この映画からは文学の匂いがする。画面の色彩が鮮烈。その色と、それが映し出す物語から、この映画がかつて文学作品が目指したような時代を超えた普遍的物語、寓話的物語を目指していることが伝わってくる。
原作同様、大都市ベルリンの底辺で生きるさまざまな人々を描くが、時代のみ"現代"に移行。そこで、登場人物はアフリカ系難民たちや犯罪者たちが多くなるのだが、いわゆる社会問題の告発や狭義のリアリズムとはまるで関係がない。人間が生きようとするときの難しさ、希望、後悔が詰まっている。