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ジュゼップ 戦場の画家 (2020):映画短評

ジュゼップ 戦場の画家 (2020)

2021年8月13日公開 74分

ジュゼップ 戦場の画家
(C) Les Films d'Ici Mediterranee - France 3 Cinema - Imagic Telecom - Les Films du Poisson Rouge - Lunanime - Promenons nous-dans les bois - Tchack - Les Fees Speciales - In Efecto - Le Memorial du Camp de Rivesaltes - Les Films d'Ici - Upside Films 2020

ライター6人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 3.7

相馬 学

戦争の悲劇を超え、分断の愚かさを突く

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 独裁下のスペインから亡命した後、世界を渡り歩いた画家ジュゼップ・バルトリ。そんなアーティストの、第二次大戦期フランスの難民時代にフォーカスしたのが本作。

 強制収容所で非人間的な扱いを受けながらも、ペンと紙で収容所生活を描いていたジュゼップ。そこに浮き堀になる、人間性と残酷性という人の二面性は詩的なアニメ映像によって鮮度を備えていく。

 大戦を知らない現代の若者の視点から過去を描いているのがミソ。現代の場面の動きはスムーズだが、異国人への野蛮なヘイトがはびこる大戦時の描写はストップモーションでぎこちない。アニメの表現力を活かして歴史を描きつつ、現在の世界の在り方を問う反分断の力作。

この短評にはネタバレを含んでいます
山縣みどり

誰もが他者の痛みを思いやれたらいいのに

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

祖国を追われ、メキシコ経由でニューヨークにたどり着いたスペイン人画家ジュゼップ・バルトリの波乱万丈の半生に驚く。なかでもショッキングなのがスペイン内戦後にフランスの強制収容所で受けた残酷な仕打ち。人を人とも思わぬフランス人憲兵の言動が現代社会でも飛び交う難民に対する差別的なフェイク・ニュースを彷彿させ、祖国を失うことの哀しみが増す。正気を保つために筆を走らせた画家のスケッチを生かしたアニメ画はときに残虐性も感じさせるが、それはきっと苦い過去を忘れてはいけないという監督のメッセージ。画家の実話に加えた創造部分は人間が失ってはいけない思いやりを伝えていて、優しいラストへつながる。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

アニメでも映えるフリーダ・カーロの存在感

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

強制収容所を舞台に、知られざる史実に迫るだけでなく、目をそむけたくなるような描写をアニメで表現することの意味合いや効果など、『トゥルーノース』と共通するところも多い。そんななか、実際にジュゼップが描いた風刺画の使い方だけでなく、線描画と水彩画のような素朴なタッチが、メキシコパートに入ると色鮮やかになる流れなど、アニメ作家ではなく、イラストレーターが監督を務めたことが、ある意味“色”になっている。抽象的なカットも多い中、もうひとりの主人公である年老いた主人公が孫へと語り継ぐ記憶の物語の一部として、ジュゼップの愛人として登場するフリーダ・カーロの存在感はなかなかだ。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

"画"の力、"画を描くことの力"を描く物語

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 スペイン内戦時代にフランスに渡って強制収容所で過酷な生活を送り、後にメキシコに亡命してフリーダ・カーロの愛人となった実在の画家ジュゼップ・バルトリがどんな人物だったのか。それを、今は年老いた当時の収容所の看守が孫に語る。そういう"画の力""画を描くということの力" を描く物語なので、それを画を用いる表現であるアニメーションで描くのは、正しく、そして勇気がある。
 物語の中で、バルトリ自身が描いた画やそれが動くシーンも登場するが、物語自体を描くアニメーションの画風は、あえてバルトリの画とはまったく違うタッチのもの。抽象化された形と抑えた色彩で描かれる、強制収容所での寒い冬の光景が味わい深い。

この短評にはネタバレを含んでいます
斉藤 博昭

アニメの原初的スピリットを味わい、ラストは深い感動が待つ

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

第二次大戦中の強制収容所でのドラマなので、起こることはある程度、想像がつく。だから、もしこの物語を実写、あるいはオーソドックスなアニメで描いたら、ここまで独自の作品になっていなかったかもしれない。
アニメではあるが、人物や背景は極力、動かさない、「スケッチの集積」といった作り。その結果、収容所で主人公が描くスケッチと、映画のタッチが同化する不思議な感覚がもたらされる。このシンプルさは、惨たらしい事実を柔らげる寓話的な効果も。
温もりに溢れた色彩による現代パートとの鮮やかなコントラストが、「過去の怖い思い出を原色で描いて克服する」という作品のテーマと一致。クライマックスは宝石のように美しい。

この短評にはネタバレを含んでいます
猿渡 由紀

深い話を、ふさわしいビジュアルスタイルで語る

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

スペインに生まれ、メキシコに住み、ニューヨークで亡くなったバルトリ。今作は、スペイン内戦中の強制収容所時代に焦点を当てる。これまであまり映画で語られてこなかった世界のその部分の歴史は、衝撃的。そしてこの映画は、人が人に対して行う残酷な行為を容赦なく描くのだ。強烈なシーンのいくつかは瞼を離れない。だが、とてつもなく暗い状況の中にも人間愛があり、それが今作の大きなテーマである。バルトリ自身の絵にインスピレーションを得たアニメーションは、まるで頭の中の記憶のように、あえて動きが少ない。収容所の時期が暗い色を中心にしているのに対し、フリーダ・カーロが出てくるとぱっと鮮やかになるのも効果的だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
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