マリグナント 狂暴な悪夢 (2021):映画短評
マリグナント 狂暴な悪夢 (2021)ライター5人の平均評価: 4.2
そのトンデモ展開に笑い止まらず!
出世作『ソウ』のビリー人形が『サスペリアPART2』から影響を受けているなど、ダリオ・アルジェント好きを公言していたジェームズ・ワン監督。いまや彼の代名詞『死霊館』なオカルト路線にジャーロ要素を加えるなど、冒頭からやりたい放題だ。ちょっとトンチキなヒロインの妹など、コミカル要素もツボりまくるなか、クローネンバーグやスチュアート・ゴードンもビックリのトンデモ展開に突入。その後はゾーイ・ベルら、画に描いたようなワル勢揃いの留置所シーンなど、明らかに狙ったシチュエーションに笑い止まらず。70~80年代ホラーオマージュ大会のなか、むっちゃカッコいいカットも飛び出すなど、思わず偏愛してしまう一本だ。
ジェームズ・ワン、大暴走
自宅へ侵入した何者かによってDV夫を殺され、自身も流産してしまった女性が、それからというもの実際に起きる連続殺人事件の現場を、まるで超能力のように「目撃」するようになる。で、実はその連続殺人事件の犠牲者たちには意外な共通点があり…というお話。恐らく勘の良い映画ファンならば、途中で「あ、これ『悪魔のシスター』じゃね?」と気付くはずだが、とにかくストーリー後半の振り切り方が凄まじくて、もはや元ネタがどうのこうのとか、どうでもよくなってしまう。なんというか、ジェームズ・ワン大暴走(笑)。ネタバレ厳禁なので曖昧な表現になってしまうが、まさかあれがそういうことだったとは!ひとまず百聞は一見に如かず。
『死霊館』超え!?オカルトどころではないワンの新境地
『インシディアス』から『死霊館』へと向かう時期のJ・ワンのホラー路線は、オカルト一直線だった。で、久々にワンが撮ったホラーはどうかというと、これが一筋縄では収まらない。
まずヒロインのA・ウォーリス。『アナベル 死霊館の人形』に主演した際の、赤子を生んだばかりの陽性キャラとはまるで別人。ゴスメイクで流産の影を背負う陰性の主人公像に驚かされる。
主人公の秘密が明かされるドラマに、さらに仰天。アルジェントの影響を公言してきたワンだけにスプラッターの要素は想定内だったが、そこにクローネンバーグの要素が加わる新味。これは明らかにオカルトを超越している。ワンのホラーが好きな方は、とにかく必見。
ジェームズ・ワンの得意技、王道ホラーをひとヒネリ!
ジェームズ・ワン監督のホラー映画は、『インシディアス』シリーズも『死霊館』シリーズも、昔からある王道のホラー映画の形式とアイテムを継承し、あえて古典的ネタを正攻法で料理するのが身上。今回もそこは変わらず、しかもそれを強調するかのように、画面の質感と色調がまるで'70年代ホラーの雰囲気で、音楽も『ハロウィン』のテーマ曲を連想させる妙にレトロなエレポップ風になっていて、そこにもこの監督の『アクアマン』を経て久々にこのジャンルに帰ってきた喜びが感じられるような。そしてもちろん今回も、おなじみの要素を使って、ということはあれか?それともこれか?と楽しく推測させておいて、ちゃんとヒネリを加えてくれる。
「そう来たか」と思わせるアイデアに拍手
アイデア勝負の超低予算映画「ソウ」で業界入りしたジェームズ・ワンが原点に戻ったような作品。後半で明かされることは斬新で、良い意味でばからしく、「そう来たか」とつい拍手してしまいそうになった。そのあたりからはビジュアルもユニークになるのだが、そこまでは古典ホラー映画へのオマージュがたっぷり。そうやって、これもその手の映画だろうと思わせておくところが、またうまいのである。ツッコミどころはあるものの、まあご愛嬌ということで。主演のアナベル・ウォーリスの演技も良い。ジャンルへの偏見のせいで見逃されがちだが、ホラー映画には優れた演技があるのだということをあらためて認識させられる。