GUNDA/グンダ (2020):映画短評
GUNDA/グンダ (2020)ライター4人の平均評価: 4
一見静かだが、実はとても野心的
ひとつの農場を舞台に豚の母親と子豚たちの様子を静かに追う、一見のどかで詩的なドキュメンタリー。ナレーションもなく、動物中心の映画にありがちな、動物をかわいく見せようとする演出もない。それでも観る者は、子供がある程度成長しても、まだ気にかけている母親の様子に、心をなごませてしまう。だからこそ、結末がずしんと響くのだ。生涯ヴィーガンを貫いているホアキン・フェニックスがエグゼクティブ・プロデューサーを務めているのも納得。筆者はもともとベジタリアンだが、今作を見て考え直す人は多いのではないか。「かわいい」と言いつつ、その動物を食べている人間の矛盾を突く野心作。
ワクワクとハラハラ、歓びと涙、躍動感あるアクション!
映画の原初的な愉楽が詰まった驚異の傑作。ヴィーガンを公言するホアキン・フェニックスが製作総指揮に名乗りを挙げたが、『動物農場』や『ベイブ』に通じる風刺性も装備しつつ、この無双の名優は母豚GUNDAの表情――「非・演技」の凄さに嫉妬・感嘆したのではないかと思ってしまう。
ドキュメンタリーと銘打ちつつ、実は綿密な「演出」を凝らしたミニマリズム表現。いくらでも加工し盛れる映像の時代に、コサコフスキー監督は諸要素を削ぎ落とす事で動きや些細な音への集中を高めた。キュアロンが『ゼロ・グラビティ』から『ROMA』に旋回した様な、今のデジタル技術を駆使し、映画史の初期型への遡行を試みる流れにある大きな成果。
ブタ、ニワトリ、牛と同じ目線になって、最後は想定外の事態に
人間のセリフが一切なく、聞こえるのは動物たちの鳴き声と彼らが動いて出す音のみ。カメラも極端にローアングル(動物目線)だったりと、観続けるうち、こちらも彼らの一員になったような錯覚におちいる。ここまで異色のドキュメンタリーも珍しい。
人によっては退屈に感じられる時間もあるかも。しかし突発的アクシデントも発生し、思わず身体が硬直したりもする。何より、モノクロの映像が美しく、ブタたちの産毛が陽の光にキラキラと輝く瞬間など、アート作品としてもハイレベルだ。明らかに真っ暗な空間で観るべき作品。
最後の7〜8分の展開は、想像していた方向とは別の感動に襲われた。それは愛おしさであり、切なさであり…。
じっと見つめていると、世界が別の形で見えてくる
音楽もなく、ナレーションもなく、そこにあるのは農場で生きる豚と、それを取り巻く世界のみ。それが、草の葉の尖った先端や鶏の羽毛の揺れまでも克明に映し出す端正なモノクロ映像と、そこでする音のみで映し出されていく。それだけなのに、目を離すことが出来ない。そのように何かをじっと見つめ続けるという行為を久しくしていなかったことにも気づかされる。そうしていると、世界が別の形で見えてきて、ただ牛が立ち上がるといった何でもない動きの美しさに、感じ入ってしまうようになる。見ていると、そこではよくあることなのにショッキングに感じられてしまうことが起きたりもするが、それもまた美しさの中に溶け込んでいく。